専門用語、業界用語、隠語、と言った暗号めいた言葉は、聞いたことが無い人からすると、ちょっぴり謎めいていて、怪しげな響きがなんだか魅力的に感じられるものです。そして、その言葉は、寿司のことを「シースー」、ジャズのことを「ズージャー」というように、時に使ってみたくもなるものです。今風に言えば「つらたん」などの若者言葉、いわゆる「JK用語」もその仲間に入るでしょう。
そんな、世の中に数多存在する、専門用語的な言葉のひとつに、「ナッドサット語」というものがあります。
「ナッドサット語」とは、1962年に「アンソニー・バージェス」という英国の小説家が発表した「時計じかけのオレンジ」の中で、主人公のアレックスたちが使う若者言葉として登場する言語です。その小説は、1971年に巨匠「スタンリー・キューブリック」の手により映画化されました。「時計じかけのオレンジ」は、この映画版で知っている方のほうが多いのではないでしょうか。
アレックスとそのドルーグ(出典:oneplusonemagazine.com)
「ホラーショー(意味:素晴らしい)」、「ドルーグ(意味:仲間)」など、劇中で使われる、アレックスたちだけが使うその言葉は、山高帽、付け睫毛、白一色の服装とともに、管理された全体社会の中での、若者文化を描き出すうえで重要な役割を果たしています。
かく言う私も映画から入ったクチで、映画を観たあと、「これは、絶対に、モテる」と確信し、日常生活で「ハイハイゼア!」などとナッドサット語を頻繁に取り入れ、社会的にトルチョック制裁されかけるという黒歴史を思い出したら若干死にたくなりました。
黒歴史はさておき、この作者にして、言語学者でもあるバージェス自身が考案したナッドサット語は、その訳を日本語に合わせると、いわゆる「洋画、洋楽における邦題の面白さ」のように、なんとも味わい深くなります。それでは実際に、作中で使用される言葉とそのおおまかな意味を、日常的な会話例も交えて紹介していきます。
ナッドサット語と会話例
アルトラ
意味:超暴力、暴行
会話例:「酔っ払ったおっさんが電柱にアルトラを開放している」
ガティワッツ
意味:腹
会話例:「すいません。ガディワッツが痛いので今日は会社を休みます」
ウォーブル
意味:音楽
会話例:「キミはマイルス・デイヴィスのウォーブルを真剣に聴いたことがあるのか?」
ガラジー
意味:その目
会話例:「ガラジーで現実を良く見なさい」
ガリバー痛
意味:頭痛
会話例:「二日酔いでガリバー痛がする」
エッギウェグ
意味:卵
会話例:「茹でエッギウェグと言えば板東英二」
イン・アウト
意味:性行為
会話例:「イン・アウト! イン・アウト!」
グブリ話
意味:ふざけ話
会話例:「もう俺たちはあのグブリ話をしていた頃には戻れないんだよ!」
サプライズ訪問
意味:突然の訪問
会話例:「彼女に家にサプライズ訪問したら玄関に男の靴があった」
ビディー
意味:見る
会話例:「よくビディーったら猫じゃなくてゴミ袋だった」
シニー
意味:映画・映画館
会話例:「今度の土曜日、俺とシニーでもビディーらない?」
ステーキウィーク
意味:ステーキ
会話例:「明日また来てください。本物のステーキウィークを見せてやりますよ」
スパチカねんね
意味:睡眠
会話例:「(ドヤ顔で)スパチカねんね時間は3時間です」
スメック
意味:笑
会話例:「くそスメックたwww」
スルーシュ
意味:調べ
会話例:「その件については良くスルーシュしていないので分かりません」
スルージー
意味:楽しむ、満喫
会話例:「休暇はスルージーされましたでしょうか」
タッストゥック
意味:ハンカチ
会話例:「木綿のタッストゥックーフ」
デボーチカ
意味:女
会話例:「裏切りはデボーチカのアクセサリーのようなものなのよ」
ドルーグ
意味:仲間
会話例:「俺たち心のドルーグだろ?」
トルチョック
意味:殴る
会話例:「君がッ! 泣くまで! トルチョックをやめないッ!」
フィリー
意味:もてあそぶ
会話例:「私のことさんざんフィリーして! 最低!」
ヤーブル
意味:キン◯マ
会話例:「朝からヤーブルが右に寄っている」
ホラーショー
意味:素晴らしい
会話例:「時計じかけのオレンジは最高にホラーショー」
ボルシー
意味:でかい、凄い、えらい
会話例:「すごく……ボルシーです……」
ライティ・ライト
意味:OKです
会話例:「ライティ・ライト牧場!」
アピ・ポリ・ロジー
意味:謝罪、ごめんなさい
会話例:「この度は弊社の不手際でお客様に不快な思いをさせてしまい、大変アピ・ポリ・ロジー」
ドゥービドゥーブ
意味:わかった、了解した
会話例:「ドゥービドゥーブしました。引き続き、よろしくお願いいたします」
明日から、ぜひ使ってみてください
さて、いろいろとビディーってきたナッドサッド語ですが、言葉をスルージーな感じでフィリーしていて、非常にホラーショーですね。今、改めて「時計じかけのオレンジ」を観直した影響で、ナッドサット言葉がボルシーでてきてしまっていますが、アピ・ポリ・ロジー。ドルーグ各位におかれましてはこの気持をどうかドゥービドゥーブしていただけますと幸いです。
言葉というものは、使う人の中で、時代の流れで絶えず変化、進化しています。私はそれが最高にホラーショーだと思うのですが、中には「けしからん! ちゃんとした言葉を話せ!」とアルトラを開放してしまう方もいます。しかし、人類が言葉を発したその時より、言語は絶えず変化し、進化しているのですから、それを止めてしまうことは人が育んできた言葉というボルシーホラーショーなツールの成長を止め、それこそ文化をトルチョックしてしまうこととなってしまいます。
「何を言っているのか分からない」「これだから今の若者は」と突き放してしまうのではなく、それがどういう意味なのか、どんな経緯でその言葉になったのかをスルーシュして考えてみるのも、また言葉をスルージーする方法です。いろいろな言葉を知っていれば、表現力が豊かになります。表現力が豊かになれば、コミュニケーションも豊かになります。そして、それはきっと人生をホラーショーなものにしてくれるのではないでしょうか。
ぜひ、みなさんも明日からこの魅力的な言葉「ナッドサット語」を使い、豊かなコミュニケーション人生をスルージーしてみてください。その際、白い目をされて社会的にトルチョック制裁されそうになっても、当方一切責任は取れません。
以上、ちょっとしたグブリ話でした。
出典(アイキャッチ画像):A clock work orange official trailer