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マッサージ師に教わった、人間関係をハックする快楽の作法

岡田麻沙 岡田麻沙


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このような、「脳が予測した刺激」と「現実の刺激」との間にあるズレのことを、「予測誤差」と呼ぶ。くすぐったさもまた、予測誤差によって起きている。わたしたちが自分の体をくすぐるとき、脳はほぼ正確に刺激の値を計算することができるので、当然なんとも感じない。でも他人から触られるときには、どれほどの刺激が与えられるのかを正しく計算することができない。だから、くすぐったい。

毎日違う人から体を触られて疲れるのは、この予測誤差が生じまくるからだ。わたしの脳は、前日に施術をしてくれたマッサージ師の動きや力加減を覚えていて、「こういう圧が掛かるだろう」と勝手に予測をはじめてしまう。もちろん、その日にマッサージをしてくれるのは前日とは違う人なので、予測から結果がズレてくる。ズレが大きければストレスになる。そこで、体をチューニングしていく作業が必要になってくる。マッサージ師はわたしのリアクションを観察し、触り方の最適解を探す。わたしはマッサージ師の触り方を背中や腕で感じ取り、触られ方の軌道修正をする。より正しい予測を立てられるよう「体の思いこみ」を解きほぐす。これは楽しくもあるが、消耗する作業だった。

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快楽の作法

ところが、10人に1人ほどの割合で、受け手のチューニングをほとんど必要としないマッサージ師がいることが分かってきた。そうした人々の施術では、マッサージを受けた後に必ず生じていた体力の消耗が起こらない。名人、と呼ぶのは少し違うようだ。とびぬけて上手な人もいたが、標準的な技術レベルの人が多かった。ただ彼らは、リピート客を多く持っていたり、すぐに人気が出たりしていた。

人気マッサージ師たちに共通していたのは、ナビゲーションの巧みさだった。彼らは様々な方法で、わたしに正しい予測を立てさせてきた。たとえば、初めて背中に手を触れるとき。「スッ」と息をのむ音が、背後から聞こえてくる。わざと音を立てて息を吸うことで自分の位置を教えるとともに、「ああ、これから触れられるのだな」とこちらに理解させているのだ。

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