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本屋大賞ノミネート。伊坂幸太郎『フーガはユーガ』悪とは何かを問う作品

高桑のり子 高桑のり子


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伊坂幸太郎さんの1年ぶりの新作『フーガはユーガ』が、2019年本屋大賞にノミネートされました。

ノミネートは以下10作品

***
『フーガはユーガ』伊坂幸太郎(実業之日本社)
『ベルリンは晴れているか』深緑野分(筑摩書房)
『愛なき世界』三浦しをん(中央公論新社)
『ひとつむぎの手』知念実希人(新潮社)
『火のないところに煙は』芦沢央(新潮社)
『ある男』平野啓一郎(文藝春秋)
『さざなみのよる』木皿泉(河出書房新社)
『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ(文藝春秋)
『熱帯』森見登美彦(文藝春秋)
『ひと』小野寺史宜(祥伝社)
***

大賞の発表は4月9日です! 「伊坂幸太郎ファンとしては、是非大賞に選ばれて欲しい!」と願わずにいられません。

伊坂幸太郎といえば、2018年度にも『AXーアックス』がノミネートされましたが、大賞を逃し5位でした。


出典:Amazon

遡っていくと、2015年、2009年、2008年、2007年、2006年、2005年、2004年と、調べるのが面倒になるくらい伊坂作品がノミネートされています。

2008年には『ゴールデンスランバー』で大賞を受賞。映像化もされた作品なので、記憶にある方も多いかと思います。


https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/81qflEMh9RL._SY445_.jpg
出典:Amazon

『ゴールデンスランバー』では、政府という大きな悪の組織に追われる主人公の話でしたが、伊坂作品て、悪人はどこまでも悪人です。

読んでいて腹が立つ程の悪人が登場します。

『アヒルと鴨のコインロッカー』では、ペット殺しの若者。


https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51-QylrI-AL.jpg
出典:Amazon

『マリアビートル』では王子。


https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41wse-%2BcPPL._SY346_.jpg
出典:Amazon

今回の『フーガとユーガ』では、父親、犯罪者を不当に弁護する弁護士、ショーを鑑賞する人々。

悪人はどこまでも悪人で、改心することはなく、悪意に満ちたままストーリーは進められています。

反面、善人は純粋な善人ではありません。何かを抱えながらも、悪と対峙するとき本質的な部分が見え隠れする。その部分が善であるという認識です。

『ゴールデンスランバー』では、首相暗殺疑惑をかけられ逃亡する主人公を旧友たちは疑うことなく救おうとします。ともすれば絶望してしまいそうな状況で、伊坂幸太郎の作品では周りにいる善人達が軽快に、時に法やルールを犯しながらも痛快に救い出します。

今回、本屋大賞にノミネートされた『フーガはユーガ』もそうです。”現実世界ではピンチにヒーローはやってこない”そんな概念を覆すかのごとく、ピンチにヒーローはやってくるのです。

『フーガはユーガ』は単純な入れ替わり作品ではない。非現実ではなく現実に偏った作品だ

簡単なあらすじは以下の通り。

常盤優我は仙台市内のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと。そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと――著者一年ぶりの新作書き下ろし長編は、ちょっと不思議で、なんだか切ない。
Amazon

双子の風我(フーガ)と優我(ユーガ)が一年に一度の誕生日、2時間おきに 入れ替わります。

『2時間ずれて生まれてきた双子が、誕生日の日だけ、2時間おきに瞬間移動』

伊坂ワールド全開で進められる設定の中、双子は、その能力をフル活動して人助けをしたり、悪と戦います。

まさにヒーローですが、入れ替わりという非現実に相反するように、戦う相手は現実の悪です。

  • 父親によるDV
  • 虐待
  • 児童ひき逃げ事件
  • いじめ
  • 誘拐

SF、ファンタジー要素を持つ特殊能力が重要な役割を出しながら、そこに偏った展開ではなく、あくまでも現実世界の問題に切り込んだ作品。

ニュースで観たことのあるような問題、ワイドショーで流れてくる目を覆いたくなるような虐待の現実を、文章から想像し思わず鳥肌が立ちます。

俺の弟は、俺より結構、元気だよ

物語は双子の兄、優我の語りで進められます。

伊坂作品を読んだことある方なら大きく頷いてもらえるかと思うのですが、序盤に伏線をこれでもか! という程仕込んできますよね。

毎回「伏線なのだろうな」と思わせながら、どこに絡んでくるのかはサッパリわからず。今回の作品は中盤に差し掛かるまで、ドロドロとした負の感情が流れてくるものでした。

しかし、「あ! 伏線が繋がった!」と思った瞬間から展開は急激にスピードアップしていき、負の感情は応援へと変わり、最後には温かくも切ない感情が沸き起こります。

どんな作品でもそうですが、読後「何であの時、あんな行動をしたんだ…」と、フィクションにも関わらず苛立ちを覚えたり、物語に憑依しすぎるあまり、その後の展開に思いを馳せてしまうことがあります。

そんな時、小説なら「たった一文」。映像なら「一言」が心を救うこともありますよね。

『フーガとユーガ』では、痛快な展開ながら、読後は切なく悲しい気持ちに取り憑かれてしまいます。

そんな気持ちを払拭してくれるのが

「僕の弟は、僕より結構、元気です」

という一文。思えば伊坂作品では、ユーモアと皮肉めいた名言が数々あります。

伊坂幸太郎作品の、ウィットに富んだ言い回しや名言

本屋大賞にノミネートされた伊坂幸太郎とは、どのような作家なのか? 記事で触れようかと思いましたが、経歴や実績なんていうのはWikipediaに書いてあります。

私が伊坂幸太郎の作品を読むようになったのは、物語の疾走感と見事なまでの伏線、ユーモアに富んだ独特な登場人物たち。そして、その登場人物から発せられるウィットに富んだ言い回しや言葉でした。

思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアと皮肉めいた言葉、物語の深刻さと、登場人物たちの心情が時々マッチしているようなしていないような。それが伊坂ワールドです。

伊坂幸太郎という人物を紹介するには、作品名や受賞歴をただ記すより、作品に書かれている言葉を拾い出す方が魅力が伝わるのではないか? と感じます。

そこで、本屋大賞に常連のようにノミネートされている伊坂幸太郎の、作中での名言を拾い集めてみました。

頼むぜ。車間距離ちゃんととっておけよ。いいか、距離感なんだよ、人生は
出典:残り全部バケーション

優しいって字はさ、人偏に『憂い』って書くだろう。
あれは『人の憂いが分かる』って意味なんだよ、きっと。
それが優しいってことなんだ。ようするに。

ようするに?

想像力なんだよ。
出典:ラッシュライフ

本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ 。
出典:重力ピエロ

そもそも、大人が格好良ければ、子供はぐれねえんだよ。
出典:チルドレン

世の中に酷くないことってないでしょ?生まれた時から、死ぬのが決まっているというのがすでに酷いんだから。
出典・グラスホッパー

気軽に、「さようなら」が言えるのは、別れのつらさを知らない者の特権だ、と私は思う。
出典:重力ピエロ

随分前に読んだ作品も含まれていますが、私はこの、独特の言い回しが大好きです。

『フーガはユーガ』は、「誰にとっても悪ではないが」「誰かにとっては悪である」作品

伊坂幸太郎の世界は、

・『ゴールデンスランバー』の国家権力や『モダンタイムズ』の検問システムのような大きな悪

・『陽気なギャングは世界を回す』の天才強盗のような非現実的な悪

・『フーガとユーガ』のDVや虐待イジメような、個人間で行われる局所的な悪

があります。

局所的な悪の場合、誰にとっても悪ではないが、当事者にとっては悪であり、そこに立ち向かう孤独があります。

現実世界では、この「局所的な悪」がそこら中に蔓延しています。

『フーガはユーガ』は、誰にでも起こりうる問題。起こらなくとも、ニュースやワイドショーで自然と耳に、目に入ってくる悲しい事件や事故。目をそらしてしまいがちな問題に、目を向けなければ! と思わせてくれる、そんな作品でした。

そして、そんな目をそらしてしまいそうな悪に、立ち向かったのが主人公の双子、フーガとユーガでした。

結末はここでは明かせませんが、ただ一つ言えることは、

「俺の弟は、俺より結構、元気だよ」

ということだけです。

おしまい。

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