「アントマン&ワスプ」アリかナシかで言うならば、大いにアリ

加藤広大 加藤広大


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出典:IMDb

「自分の力や能力を使って敵と戦う」作品における共通の問題点は、戦い続けるうちについつい強さや派手さがインフレし続けてしまうことが挙げられる。

いきなりたとえ話になるが、倒したと思った戸愚呂(弟)がいきなり現れ、実は前回戦ったときは20%で、60%の力を出して大いに幽助をビビらせた後「3分でこのビルを平らにしてみせようか?」とドヤ顔で告げられ、後に暗黒武術会決勝戦で100%になって絶望を感じていたらついには100%中の100%などという謎の形態になり、「技を超えた純粋な強さ、それがパワーだ!」と謎の脳筋理論を展開するなど、知力体力を駆使して満身創痍マンシンソウイ、強敵に打ち勝った後はさらなる強敵(あるいはもっと強くなった戸愚呂)が現れるのが常である。

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さらに、この手の物語は「前作(これまで)より面白くなること」が求められる。「さらに強い刺激が求められる」と言い換えてもいい。薬物への耐性がついていくようなもので、観客はもとより、何なら作者も、量を増やしつつ打っていかなければ満足ができなくなってしまう。

ちなみにこのインフレを見事に解消したのが「ジョジョの奇妙な冒険」で、インフレ極北の代表例をわかりやすく挙げると「ドラゴンボール」であるが、戸愚呂の話が長くなってしまったので割愛する。

これは漫画の世界だが、映画の世界でも同様で、いわゆるシリーズ物は、より派手に、よりキレイに、より美しく、より面白くなることが求められる。「オーシャンズシリーズ」など、水戸黄門的な展開が期待される作品もあるが、それはまた別のお話で、とにかく「強さや派手さがインフレし続けてしまった物語を修正するためにはどうすればよいか」問題は、どうしてもつきまとう。

あの災厄の後「アントマン&ワスプ」をポンと置いてみせるMCUの余裕

「アントマン&ワスプ」は、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェイズ3に位置し、シリーズとしては20作品目である。時系列は「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」で描かれた後の話であり、ちょうど「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」と時を同じくする。

ヒーロー同士が考え方の違いから内乱を起こし、真っ向から激突する「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」と、今年、MCUファンを恐怖と絶望のどん底に叩き落とした「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」は、いわば「インフレしきった」状態であり、摂取し続けた私達は、梅干しを擬人化したようなヴィジョンが画面に出ていても、もはや何の違和感もないほどに慣れきってしまっている。

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念のために書くが「キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー」と「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」の間にも「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」や「ブラックパンサー」など、合計5作品が公開されているが、いずれも本作の状況とはちょっと違う。そして、その状況を作り上げているのはほかでもない「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」である。

で、そこに「アントマン&ワスプ」が登場した。本作は過去、量子世界に閉じ込められたハンク(マイケル・ダグラス)にとっての妻、ホープ(エヴァンジェリン・リリー)にとっての母親であるジャネット(ミシェル・ファイファー)を探しに行く話であり、ソコヴィア協定に違反した罪で2年間自宅に軟禁されているスコット(ポール・ラッド)は、ジャネットのメッセージを受信したことをきっかけとして、ハンクたちと合流する。

つまり、単に母ちゃんを探しに行く家族とその知人の話であり、宇宙の命運がかかっていた「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」と比較すると、あまりにもスケールが小さい。

が、あの重い話の後に、本作をポンと置いてみせる余裕は「さすがマーヴェルですなあ」と思わずにはいられないし、シリアスな「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」から一転、緊張は鮮やかに緩和される。

軽くて楽しい作品。予習はしておいたほうが吉。

「アントマン&ワスプ」は「量子世界」というテーマでSF風味を添加しながらも、単純に鑑賞するのであれば難解な点は少なく、気楽に観ることができる。

出てくる敵も「宇宙の大災厄」みたいなとんでもない奴ではなく、単なるチンピラだったり、ピムとホープが作り上げた量子トンネルを狙うゴーストも、まあ強いし魅力的だが、誤解を恐れずに書くならば「昔ながらのヒーロー物TV番組に出てくる悪役」の域を出ない。

しかし、これがマイナス要素かというと、決してそうではない。久しぶりに観たスコットはいつもの通りよき父親で、ジョークを飛ばしつつも他人のために行動する紛れもないヒーローである。

もちろんホープとの掛け合いも健在で、前作からのノリをしっかりと引き継いでいる。彼女はワスプ・スーツを身に着け、スコットと共闘する。「出してみました」みたいな適当さではない、きちんと女ヒーローとしてキャラが立っている。

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引き継いでいるといえば、さらにご健在なのがルイス(マイケル・ペーニャ)で、出てくるだけで笑えるし、喋ると更に「お約束」な面白さが倍増する。

そしてこの面白さは、豪華なバトルシーンや、あっと驚く仕掛けには左右されない。編集技術や演技などの力によって引き起こされる。ネタバレになるので詳しくはかけないが、最も顕著にその力が現れているのが、スコットがイタコ的役割を果たすシーンなのは間違いない。

と、大いに笑えるし、気楽に楽しめる映画ではあるのだが、この安心感と楽しさは「アントマン」そして、他のMCU作品を観ているか否かで大きく印象が変わるだろう。

娘と楽しそうに遊ぶスコットがいきなり登場しても、なぜ「楽しんでいる」のかは前作を観ていないといまいち感動が伝わらない。「ソコヴィア協定」や「アベンジャーズ」と言われても、何のことだかわからない。そもそも、なぜ「アントマン」になったのか、なぜ量子世界に飛び込まなければならないのかがわからない。そして、何よりラストの衝撃が伝わらない。

これはもう弱点というよりは仕方のないことなので、予習をおすすめする。サッカーだってアメフトだって、ルールや選手やチームを知っていた方が絶対に面白い。それは映画にも代入できる。

と、ここまで書いてよく考えたら「アントマン&ワスプ」もインフレではないのか

個人的には「アントマン&ワスプ」は、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」の緊張を緩和させ、インフレしきった状態に対してのカウンターとして、適切な役割を果たしたと感じる。繰り返しになるが、サノスが見せた神々の黄昏の直後に本作をポンと置いてみせる余裕はさすがの一言である。

が、よく考えたら宇宙の果てまで拡大しきったMCUが、今度は量子世界の大きさにまで縮小しきるという、内なる宇宙への逆方向の拡大(あるいは縮小)は、チャールズ・イームズと妻のレイ・イームズの「Powers of Ten」を想起するまでもない。「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」でアベンジャーズたちが奮闘する裏で、宇宙には行かずに、ある意味でもっと大きな「世界」を冒険する本作は、今までよりもヤバいインフレなのではないだろうか。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/09/373fe1cd2d57506951670feceaf6e81e-e1536972941275.jpg出典:IMDb

そして、さらによく考えた場合、アントマンってめちゃくちゃ強いのではないだろうか。もし量子レベルに自在に小さくなれる力を身に着けて、インフィニティ・ガントレットが破損していることを前提とすれば、サノスですら軽く倒せそうな気がする。映画だからしてそう上手くはいかないだろうが、本来「小さくなれる」という力は、それほどのチート能力なはずである。

などと、アントマンの実力を査定し、サノスの倒し方をいろいろと考え「アベンジャーズ4」ではどんな活躍をするのか? どのような形で合流するのか? 「時間の渦」という言葉が出てきたが、となると、ドクター・ストレンジが「見た」平行世界へも繋がるのではないか? いや、オッズは低いがインフィニティ・ガントレットを身に着けたルイスがワンパンで宇宙を救う可能性も捨て切れないなど「俺のMCU」をいろいろと考え、めちゃくちゃ楽しみになってしまっているので、本作の位置やタイミングなど、本作におけるマーベル側の計算・見積もりは(少なくとも私には)そつなく妥当であったといえよう。

今回、マーベルは世界感を崩さず、素晴らしい手腕でインフレを防ぐ(隠す)ことに成功したと思うし、到達点である「アベンジャーズ4」そして次作に予定された「キャプテン・マーベル」への橋渡しも、ワスプのキャラを立てることにより、しっかりと果たした。いろんな意味で接着剤的な映画で、だからこそ繋ぎ目を確認する価値がある一作だ。

ところで本作は「本編の後にも映像が流れます」と、ポストクレジットの存在が上映前にアナウンスされるタイプだが、あれこそバカのインフレで、今すぐ量子レベルで撲滅すべきである。

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