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「オーシャンズ8」安心して観ていられる、粋なポップコーンムービー

加藤広大 加藤広大


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出典:Youtube

とんでもなく美人の姉ちゃんが、囚人服を着て座っている。どうやら仮釈放の面談中で、彼女の口からは反省の弁が淀みなく溢れ出る。まるで準備していたように、というか「お前、絶対反省してないだろ」と開始早々で笑ってしまう。

なぜなら彼女の姓は「オーシャン」であり、今から約17年前、ほぼ同じ状況で画面に映っていたのはとんでもなくイケメンのオッサンで、そいつの姓も「オーシャン」だったからである。

というわけで「オーシャンズ8」は初っ端のカマしとして「オーシャンズ11」の冒頭を丁寧になぞっていく。今から「オーシャンズシリーズ」の最新作がはじまるということ、そして、前作までのルールに則ってゲームが進んでいくであろうことが容易に想像できる。溢れんばかりの安心感、水戸黄門的お約束展開なフィーリングにポップコーンを掴む手が止まらない。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/09/c74b57f9ebb219282fe413ac45e44280-e1536274948470.jpg出典:IMDb

さて、見事に仮出所を果たしたデビー・オーシャン(サンドラ・ブロック)が向かう先は、フランク・シナトラのリッチな声が鳴り響くラスベガスではない。ニューヨークにある高級百貨店、バーグドルフ・グッドマンの化粧品売り場である。

彼女はそこで、5年の刑期というブランクをまったく感じさせずに、実に鮮やかな手口で詐欺をはたらき、商品をかっぱらっていく。ひとしきり身の回りのものを揃えた後には、プラザ・ホテルの一室すらもかっぱらうことに成功する。

一連のオープニングシーンで彼女が見せる手際のよさは「ああ、もうこの映画安心だ」と、「映画の手際」を期待させるに充分であり、あとは「オーシャンズシリーズ」の伝統に則って、仲間が集められ、計画が説明され、盗みがおこなわれ、「実は裏でこうなってました」的ネタばらしがされるのを、ポップコーンでも食いながらリラックスして観ていればよろしい。

豪華と見せかけて薄味、粋で余裕な映画

今回の獲物は、カルティエ最大級のダイヤモンドネックレス「トゥーサン」で、門外不出の宝石を引っ張り出す舞台としては、世界最大級のファッションの祭典「メットガラ」が使われている。

つまり「8人の女性が、世界最大のファッションイベントで、巨大なダイヤモンドを盗む」という、あまりにもわかりやすい設定で「どこか古臭くないか」と思ってしまいそうになるのだが、そんなことは全くない。

もちろん、「オーシャンズシリーズ」のルールと伝統に則って物語は進行していくので、ベタで古臭くはあるし、脚本もご都合主義な部分はある。しかし、そんなこたぁどうでもいいし、そんなこと言うやつぁ野暮天ってものが「オーシャンズシリーズ」である。

前作までの粋で余裕たっぷりの洒落感は、本作でもしっかり受け継がれている。そして、主犯格が女性のみで構成されていることで、巷間言われがちな「女性の〜」なんて見立てを差っ引いても、シンプルに物語としての新鮮さがある。

たとえば、劇中で彼女たちは宝石を身に纏うが、己のスキルを駆使してかっぱらった宝石を身に着けたときの、彼女たちのあの美しさ。宝石はそこにあるだけでは単なる石であり、女性が身につけてこそ、恐ろしいほどの魅力と輝きをもたらすのだという、当たり前だが目からウロコなココ山岡的発見。これは男性キャストでは成し得ない効果であるし、ダイヤモンドという、ベタにして王道なアイテムが非常に活きてくる。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/09/bccf8fb6e643567df6a627e5f4fe1c27-e1536275027829.jpg出典:IMDb

さらに、彼女たちは「わたしたち、女盗賊です」的なアイコンに囚われない。個々の設定に合わせた私服も非常に計算しつくされていて隙がない。これは男性にスタイリングする場合と比較して、バリエーションは幅広いし大いに遊べることも関わってくるが「服を着るということは、生き様を着ることである」というファッションの一つの掟がしっかりと守られている。

そして、私服とは別に用意された個々のドレスアップ。これまた女性キャストだから映えまくる見せ場であるし、フランク・シナトラに対してのアンサーであるともいえる、ナンシー・シナトラが歌う「These Boots Are Made for Walkin’」もよく効いている。

本作は、いわゆる「よくある」チーム強奪モノで、派手な爆発も銃撃戦も出てこない、準備・実行・後始末な展開で、とにかく軽く、わかりやすい。つまりうっすーい出汁のようなもので、添加物山盛りの映画を摂取しまくった後だと、薄味に感じてしまうかもしれない。今年なんて「バーフバリ」ブームにはじまってマーベル関連作品も多かったし、「レディ・プレイヤー1」もあった。トゥーマッチな作品が多かったからなおのことかもしれない。

しかし、本作の出汁は丁寧にひかれていて、さらに上述した新鮮な要素で味付けがなされている。下ごしらえが入念に行われているから、「ああ、美味いな」と安心して食える。なので薄い濃いは問題にならない。

俺もオーシャンズ8ごっこがしたい。女の子がうらやましい

「仁義なき戦いを観た後に映画館から出てくる男は、ほぼ全員が肩で風を斬って歩いている」という、影響されすぎて登場人物になりきってしまう現象があるが、本作は男にそれをさせない。主犯格は全員女性だからである。

鑑賞後、デビーやルー姐さん(ケイト・ブランシェット)、はたまたナインボール(リアーナ)になりきって、映画館から出るなりピシッとした格好で歩いたり、メルカリでスカジャンを探してしまったり、PCにステッカーを貼り付けてしまったりした女性もいるのではないだろうか。

私が女性だったら絶対にやる自信がある。映画館から真っ直ぐ帰宅しクローゼットから一番上等な服を見繕って着用、新宿伊勢丹に出かけ、ヒールをカッツンカッツン鳴らしながらまず化粧品売り場を練り歩く。本館3階と4階あたりを物色しながら監視カメラの位置を確認しつつ、ハイブランドは高くて買えないので結局地下食品売り場に降りて「鈴懸」で若鮎を購入し、若鮎はデザートなので「つきじ宮川本廛」でうなぎを食った後にそのまま新宿三丁目に飲みに行き、酔っ払って若鮎を忘れて帰るはずだ。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2018/09/39fae66d2163fc23b50c47798e43a0fb-e1536275252247.jpg出典:IMDb

移動の際はもちろんサントラを爆音で鳴らす。今回の劇伴・選曲センスは素晴らしく、とくにダニエル・ペンバートンの劇伴は「オーシャンズシリーズ」や古今東西のスパイ映画などの楽曲をカットアップして今風に仕上げたようなテイストで、完全クラブ対応というか「とにかくゴージャズにやってやれや」的なノリと「こういうの、面白いっしょ」といった遊び心、かつ繊細さが同居していて、映画と同様に安心して聴いていられる。

そして、イヤホンで聴いたときのテンションの上がりっぷりも凄い。念のために恵比寿や新宿三丁目界隈、地下鉄内や駅構内で確認したが、思わず犯罪に手を染めてしまいそうになるほどのクオリティである。とくにエスカレーターに乗っているときに聴くと高揚感が素晴らしいので、ぜひ試してみて欲しい。

しかし、私は男性である。どう頑張ってもデビーやルーになりきるのは難しい。なので非常に羨ましく思うし、自分が女性でないことがちょっと悔しい。宝石で着飾ってみたいし、何ならドレスだって着てみたい。

だが、私と同じように女性の方も、多くの映画を観て同じことを思っていたのではないだろうか。ノーマン・スタンスフィールドになりきって頭を傾けプルプルしながらフリスクを食べたい。トニー・モンタナになりきって「おれのダチに挨拶しな」と叫びたい。ビル・キルゴア中佐になりきって「朝のナパーム弾の臭いは格別だ」と呟きたい。レクター博士になりきってサイコな感じを出したい。ジャック・トランスになって壁から顔を出したいと。羨ましいけど自分は女の子だからできない。不公平じゃないかと。

ここで、デビーが自分を虎舞するために鏡に向かって演説を打つシーンが効いてくる。「この仕事は私たちのためにやるんじゃない。泥棒に憧れてる、8歳の女の子のためにやるんだ」という台詞は、額面以上に重い。

重い、と書いたが「オーシャンズ8」に出てくる女性たちは、弱音を一切吐かない。葛藤もない。カラッとしていて暗さは一切無い。いつでも洒落が効いていて、最初から最後まで、ずっと「粋」である。粋でスマートで華やかな「女性」がここまで全面に押し出された映画って、あんまりないんじゃないだろうか。と、ここも本作が新鮮である理由のひとつである。

溢れ出る金曜ロードショー感、あるいは木曜洋画劇場における「当たり映画」的存在な名作

冒頭でも書いたが、本作は犯罪モノであるというのに、とにかく安心して観ていられる映画で、どんでん返しも想定内だし、仕掛けも控え目である。ハラハラすることもないし、ドキドキすることもない。個人的にはアン・ハサウェイがいつの間にか凄まじく色っぽくなっていたのには胸の鼓動が高まったが、それはさておき、安心感は映画の傷にはならない。

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さておきと書いたが、画像を掲げたところ、やはりさておけないことがわかった。本作のアン・ハサウェイは「あなただけ、光量とあて方違いませんか?」と疑問を抱くくらい、ベタにキラッキラしている。「プラダを着た悪魔」でどう考えてもアナ・ウィンターな鬼編集長に激詰めされていた時代から幾星霜、いや、当時も可愛かったけど、こんな色気のある女優になっているとは気付かなかった。

まるでクリスティーナ・リッチがウェンズデー・アダムスからレイラになったように、ナタリー・ポートマンがマチルダからパドメ・アミダラになったように、後者はちょっと違う気がするが、感慨深いものがある。本作で唯一、今までの映画に登場するような女性像で描かれるのがアン・ハサウェイだが、彼女だけがこれまたベタな方法を使って仕事をこなすのは非常に興味深い。

「安心感」の話に戻るが、これは聞き流せる音楽にも似ている。右から左へ抜けていくような音楽は心地よくて疲れない。「レディ・プレイヤー1」のときにも書いたが、本作は「あ、今日の金曜ロードショー面白かったな」くらいのライトさで、気楽に鑑賞できる。

あるいは、今はなき木曜洋画劇場ならば「すっげえ面白い映画だったな」と感じるだろう。つまりは「単純に面白い映画」である。しかし、単純に面白い映画にはそうそう出会えるものではないし、そんな映画は得てして名作である。

さて、本作の感想を端的に述べるならば、それは奇しくも同じく泥棒モノとして、おそらく日本一有名な怪盗が登場する作品内で語られている。その猿顔の怪盗に心を盗まれた女性の傍らに居たデカい犬を飼育している庭師の口から思わず出た言葉とは

「なんと気持のいい連中だろう」

である。「オーシャンズ8」は、まさに気持ちのいい連中が出てくる、気持ちのいい映画で、どなたにもおすすめできる。劇場でもレンタルDVDでも、もちろんTVで観てもいい。機会があればぜひご覧になってみてください。

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