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越境する言葉たち。2017年下半期おすすめ小説7冊

岡田麻沙 岡田麻沙


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ブレイク・クラウチ『ダーク・マター』(2017)早川書房

越境という観点から最後に紹介するのは、パラレルワールドを扱ったSF作品。息もつかせぬスピードで物語が進展するので、手を止めることができない。これ、良し悪しである

そこは逃げないで話を聞けよ」と言いたくなるタイミングで、主人公が逃げたりする。主人公のジェイソン、量子力学を研究する物理学者ということになっているが、実はバカなんじゃないかと思えるぐらいパニクる。話を聞かない。「ダーク・マター」というタイトルもちょっとよく分からない。だけどそういう細かなリアリティがどうでも良くなるぐらい展開が面白い。

ジェイソンは、見知らぬ男に殴られて気絶する。目が覚めると今までとは違う世界にいることに気付く。彼は妻と子のいた人生を取り戻そうと、スリップを繰り返す。そして、ある瞬間に飽和する。溢れかえる沢山のジェイソン。境目が分からなくなるほど越境を続けた時、個人の名前すらも、意味を失う。最後に残されるのは「関係性」だ。

「彼女はどんな人だった?」ダニエラは訊く。
「わたしのいないきみだったよ。チャーリーのいないきみだった」
引用:ブレイク・クラウチ『ダーク・マター』(2017)早川書房、p.471

 
物語は越境する。では、物語る「言語」とは何か? 言語は、街に走った亀裂であり、川の水を汲む水がめであり、暗闇に溶ける記憶であり、心の構造素子であり、世界を繋ぐボートである。
そして、「母語」なるものについて考えることは、わたしのいないあなた、について考えることと同義だ。

 

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