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変な短篇小説7選

岡田麻沙 岡田麻沙


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リチャード・ブローティガン『芝生の復讐』(2008)新潮社

『アメリカのます釣り』で知られるリチャード・ブローティガンがしたためた62もの物語がきらめく短編集。
何度読んでも「ああああああああああああああああああああああああ!」のくだりで爆笑してしまう表題作「芝生の復讐」など、映像作品と呼んでも差し支えのないほど鮮やかなシーンが光る作品の、目白押しだ。
どの作も、ブローディガンの視覚的な文章を楽しめる。いっぽうで、ナレーション的なおかしみも忘れない。

ときには人生は、ただコーヒー、それがどれほどのものであれ、一杯のコーヒーがもたらす親しさの問題だということもある。
引用:リチャード・ブローティガン「コーヒー」『芝生の復讐』(2008)新潮社、p.47

こんな警句から始まる掌編「コーヒー」は、愛が終わり、無関心によって満たされたキッチンを訪ねて回る「わたし」の一日を照らし出す。かつて愛し合い、いまはもう愛し合うことをやめた二人というのは、しばしば、共にコーヒーを飲むことが不可能なほどに隔たってしまうことがある。もはや、見知らぬ他人の方がずっと近いと思える距離まで。
手遅れになってしまった沢山のものごとと、冷めてしまったコーヒー。それこそが「人生」の「問題」であると示すブローティガンの口調は一貫して凪いでいる。

 

村上春樹、糸井重里『夢で会いましょう』(1986)講談社

「思ひつつ寝ればや」と小野小町は詠んだというが、なるほど、こんな夢ならば凡夫ぼんぷの私だってちょっと「覚めざらましを」と言ってみたくもなる一冊。村上春樹と糸井重里の両人が、カタカナ文字の外来語をテーマにし、ショートショートを競作する。
メニューを広げ、「このアンチテーゼだけど、本当にそんなに新鮮なんですか?」と給仕に尋ねる僕の台詞が印象的な「アンチテーゼ」。「とにかく我々は腹を減らせていた」という一文からはじまる端正な掌編「パン」。いかにも村上春樹といった作品が並ぶ。

「エチケット塾に通っていた頃の君は、とても可愛らしかった」と語りかけるのは糸井重里だ。こんなキュンとくる文章をかましたかと思えば、情報それ自体が持つ華々しさを見せつけるような「スペシャル・イシュー」や、息もつかせぬ口調でまくし立てる「ゼロックス」など、同じ手になる作とも思えぬ振れ幅に触れ、読み手は仰天させられる。
何を書いても独自の息遣いを感じさせる村上春樹と、憑依の天才である糸井重里。夢ならば、もう会えないあの人とも、あの人とも、会えるかもしれないと思わせる。夢で誰かに会うことは、文字を書くことと似ているのだ。

 

以上、どう考えても変なものから、ちょっと変わった素敵なものまで、硬軟とり混ぜて並べてみた。短い短いと言われる人生の長さに気が遠くなった時は、変なものを読んでみて欲しい。

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