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変な短篇小説7選

岡田麻沙 岡田麻沙


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ガブリエル・ガルシア=マルケス『落葉 他12篇』(2007)新潮社

『百年の孤独』で名高いマジックリアリズム文学の旗手、ガルシア=マルケスによる12の短篇と、ひとつの長編。表題作である長編「落葉」も震えるほどイイのだが、今回取り上げたいのは単行本で数えて8ページというミニマルな作品、「イシチドリの夜」。
「イシチドリに目をえぐられたんだ」と語る3人の男が、右往左往する。ちなみにイシチドリは、こんな相貌である。

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クワッ。

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怖い。

睨みがきいた三白眼、ぬうと突きだされた首、硬いクチバシ。こんな奴から目をえぐられたという男たちの、物語。
彼らは暗闇の中で手を取りあい、ふらふらとあたりをさまよい、家路に就こうと試みる。けれども帰路は見つからない。
突発的な不幸に見舞われた人間に対する、周囲の冷たさが生々しい。男たちに触れた人々の拒絶は悪意ではなく、明確な保身ですらなく、日々の営みをメンテナンスするちょっとした意識のこわばりとして描かれる。社会の不文律からはみ出し、何も見えなくなってしまった3人の男たちが頼れるのは、壁の感触や太陽の温度だけ。
神話の中で、イシチドリは死を象徴する鳥だった・・・なんてことを思い出しながら読めば、また違った不条理が浮き上がろう。小ぶりながらも、黒光りする名作だ。

 

川端康成『川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選』(2006)筑摩書房

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。
引用:川端康成「片腕」『川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選』(2006)筑摩書房、p.9

ひどく印象的なこの二文から始まる表題作は、娘から片腕を借りて帰った男が過ごす夜を描いた短篇である。娘の片腕は「娘の片腕」として、持ち主とは切り離された意識を保つ。男は持ち帰ったそれを大切に扱おうと心に決める。しかし腕がそそのかす。「私を使っていいのよ」と。そう言われたらたまらない。何に使っていいのだろう。男の妄想はあふれだす。あんなことや、こんなこと。

フェティッシュであることと、幽玄であることとが、いかに隣接しているかを川端康成は本作で鮮やかに示した。腕であれ、肌であれ、顔であれ、好きな人のある部分に意識を強く注ぐとき、私たちは幽霊と会話をしているのかもしれない。

 

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