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変な短篇小説7選

岡田麻沙 岡田麻沙


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ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』(2010)新潮社

カンヌ映画祭で新人賞を獲得した女性監督ミランダ・ジュライによる、フランク・オコナー国際短篇賞受賞作。16篇の奇妙な物語が集められている。
6ページにも満たない「階段の男」という作品は、自宅の階段を誰かがのぼってくる、かすかな音によって目を覚ました「わたし」の意識によって展開する。足音はゆっくりゆっくり、じれるような速度で近づいてくる。ベッドの上で身をこわばらせ、聞き耳を立てるばかりの主人公の女性は、自分が殺されることを「確信」している。そして、男が階段をのぼり終えるまでの間に、様々なことを考える。

奇妙なのは、目覚めた瞬間には階段をのぼってくる人間のことを「誰か」と呼んでいたはずなのに、明確な根拠がないまま、すぐにそれが「男」と言い換えられていること。このズラしは実に巧妙で、物語開始から7行目ですでに、読者は語り手に対する信頼をゆさぶられるハメになる。
一日いちにち積み上げてゆく身近な他人への無関心と、大きな理想の影にこびりついた、ささやかな諦念。最後の瞬間に自分の心を彩るのは、案外そんなものたちなのかもしれない。

 

テリー・ビッスン『ふたりジャネット』(2004)河出書房新社

SF文学界における短篇の名手、テリー・ビッスンによって生み出された9つの奇妙な物語。表題作「ふたりジャネット」も、全部盛り! といった感じの奇譚きたんだが、シュールな設定、ブラックな笑い、終盤に押し寄せる意味不明の感動が盛り込まれた「熊が火を発見する」も見逃せない。アメリカの2大SF賞であるヒューゴー賞・ネピュラ賞を同時に受賞した本作は、タイトル通り、熊が火を発見する話である。
熊が火を発見する。それで、どうするか? どうもしない。ただ熊どもは、黙ってたき火をするのである。それをメディアが報道する。主人公の男性は、日々のニュースを目の端でやり過ごす中、半信半疑で、しかしどこか他人事として、その事実を受け入れる。

他人事と他人事とが何かのはずみで交錯するとき、思わぬ角度から人生に光が差しこんで、見慣れたはずの空間を、すっかり未知の景色へと変えてしまうことがある。そういう魔法はいつだって突然訪れ、鮮烈な印象を与えるくせに、夢を忘れるのに似た速度でビューンと通り過ぎてしまう。
でも大丈夫。今回の魔法は小説だから、何度だって体験できる。

 

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