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満島ひかりからデヴィッド・ボウイまで、まるで映画のようなミュージックビデオたち

加藤広大 加藤広大


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Johnny Cash『Hurt』

お次は偉大なるシンガー、ジョニー・キャッシュ先生の遺作とも言える1曲ですが、オリジナルではありません。ナイン・インチ・ネイルズのカヴァー曲、『Hurt』です。

Reference:YouTube

キリストの像や馬に乗った騎士、果物や盃など、象徴的なアイテムが次々と明示され、小気味よく画面が切り替わりますが、ジョニー・キャッシュのとてつもない、としか言いようのない声はその速さを決して許さずに、まるでテンポを引き戻すかのように映像をリードし、律します。

ちなみに、この曲が収録されている『American IV: The Man Comes Around』は、イーグルスの『デスペラード』やザ・ビートルズの『イン・マイ・ライフ』など、大半がカヴァー曲で構成されています。

これがですね、どれもとんでもないクオリティでして、特に『デスペラード』なんて「Desperado, why don’t you come to your senses〜」の「でぇ〜」という強烈な低音が口から出た瞬間に言霊となり空間を満たし、部屋全体がデスペラード感に溢れます。この声の凄さ、半端じゃありません。

話を『Hurt』に戻します。本作を監督したのはマーク・ロマネク。キース・リチャーズからレニークラヴィッツ、マドンナにマイケル・ジャクソン、コールドプレイなど数多のPVを手がけ、幾つもの賞を獲得しているアメリカMV界の重鎮です。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/M/MV5BMTM2MDA5NzIxNV5BMl5BanBnXkFtZTcwMTk1Mzk5Mw@@._V1_.jpg出典:IMDb

で、その彼をして「もうこれ以上の作品は撮れない」と言わしめたのが本MV。正直なところ作品自体は物語仕立てとは言えないかも知れませんが、もう、ジョニー・キャッシュの存在が映画みたいなものなので、正面切って歌っているだけで画面上にデカデカと「人生」という文字が浮かんでは消えていくようです。

そして、画面から匂い立つ死の予感。ジョニー・キャッシュはこのPVの後、そこまで間を置かずに亡くなっています。2003年9月12日、奥さんであるジューンの死からわずか4ヶ月足らずの出来事でした。

象徴的なアイテムの他にも、フラッシュバックのように散りばめられた彼の記憶、家族の記憶、そして、アメリカの記憶は、そのまま戦中〜戦後のアメリカそのものであると言っても過言ではなく、ジョニー・キャッシュ自身の記憶でもあります。物語の最後に、そっとピアノを閉じる彼の「手」を、ぜひご覧になってください。

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