David Bowie『Lazarus』
昨年はじめ、『★(ブラックスター)』をリリースした2日後に、突然舞い込んだ訃報に多くの人が涙しました。デヴィッド・ボウイの遺作となったアルバムから『Lazarus』のMVです。
Reference:YouTube
両サイドに黒い帯があることで、まるで彼の一挙手一投足をクローゼットのなかから覗いているような、恐ろしくも不思議な映像体験ですね。美しいほど悲しいマイムは、リンゼイ・ケンプの影を想起させます。
監督はスウェーデン出身のヨハン・レンク。
出典:IMDb
マドンナやカイリー・ミノーグ、ビヨンセなどを手がけています。個人的にもスタッカ・ブーという芸名で活動しているそうです。
ジョニー・キャッシュと同じく、痛いくらいに死臭立ち込める作品ですが、偶然そうなってしまった『Hurt』とは違い、アルバムのプロデューサであるトニー・ヴィスコンティが
「アルバム発表の時期もふくめて、すべてを故意におこなっている」
と発言しているとおり、意図的に作られた作品です。なんてったって歌い出しが
「Look up here, I’m in heaven(見上げてみなよ、俺は天国にいる)」
ですからね。書いていて泣きそうです。
涙をぐっとこらえまして、『Lazarus』とは、おそらく聖書に登場するイエスの友人、ラザロのことでしょう。ラザロは病気で死んでしまうのですが、彼の訃報を聞きつけたイエスは、ラザロを蘇生させる奇跡を起こしたといわれています。
出典:Wikipedia
MVのなかで、ボウイは目に包帯を巻いていますが、イエスは盲人の目を開けるという奇跡も起こしています。途中から包帯は取られボウイはペンを持ちます。ラザロの蘇生はイエスが盲人を治した後のことですから、これはデヴィッド・ボウイが再び蘇る(むしろ地球に落ちてくる)ことを暗示しているとも考えられます。
劇中では、シン・ホワイト・デュークやジギー・スターダストなど、創り上げられた数々のオルター・エゴが、生身のまま演じられているようにも見えます。そのキャラクターたちを脱却/創造することを繰り返した彼が、人生の最期に脱却したのはきっと「デヴィッド・ボウイ」だったのでしょう。
痛々しくて辛く、恐ろしくもある作品ですが、そのあまりの美しさ故に何度も観てしまう傑作です。
さて、3作品+マクラで1作品の合計4本を紹介させていただきました。まだまだ素晴らしいMV、たくさんありますので、またテーマを変えてどこかでご紹介できればと思います。