• MV_1120x330
  • MV_1120x330

忙しい時こそ記録しよう【連載】松尾英里子のウラオモテ

松尾英里子 松尾英里子


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

もちろん言うまでもないが、私が息子のほうだけを溺愛して、妹をなおざりにしているわけではない。ただ単に忙しくて、日々、そこまで気が回らないというか、そんな本を開くほどの暇がないだけだ。それにしても、誕生直後に記入して以降、毎月の記録も1歳の誕生日も何もなくここまで放っておいてしまったのは、さすがに娘に申し訳ない気持ちになった。

絵具を溶き、手形を押し、子どもたちの絵具遊びが落ち着いたのを見計らった私は、それではいい機会だから、と娘の小さな頃を思い出してみた。好きだった遊び、よく食べるもの、出掛けたときの様子や色々な初めてのこと・・・ん、ん、ん!? これが、困ったことに、全然思い出せない。大げさに言っているのではない。急激に記憶力が低下したのだろうかと思うほど、本当に本当に思い出せないのだ。体重のように数値が絡んでくるものは、もちろん覚えているはずもない。かろうじて母子手帳に残るグラフを見ながら推測できるくらいだし、初めて口にした言葉も「はっぱ、だったっけ? いや、それはお兄ちゃんのほうか」とか曖昧・・・。ああ、一度しかないあの瞬間をなぜ記録に残しておかなかったのか。猛烈に後悔した(一応何かに記録したと思うのだが、その「何か」も思い出せないのだ)。

モノより思い出。記録より記憶。たしかにね、そんなこともありますよ。人間、最期は棺桶に手ぶらで入るんだから。でも時には、モノがあるから思い出せることもあるし、記録してあるから記憶に残っていくこともある。何気ない雨降りの日も、カッパ姿の子どもたちがかわいくて写真に収めたから、記憶に残る雨の日になったし、すっかり忘れていた歩けなかった頃の子どもたちのことを、棚に飾ったファーストシューズを見て、ふと思い出すこともある。やっぱり記録だ。やっぱり目に見えるモノだ。

忙しいからこそ、記録に残そう。忙しいのは、充実しているから。充実した日々を忘れてしまうのは、あまりに勿体ないよね。

息子よ、娘よ。ここからは母さん、ちゃんと毎年、記録を残すよ。喜怒哀楽、新しい発見、イヤイヤ期も生意気なワードも、もっとずっと先の反抗期も、しっかり記録するよ。いつか一緒にこの本を眺めて笑おう。静かにそう心に誓った、息子の誕生日だった。

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP