世界三大国際映画祭といえば、カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア。その1つ、カンヌ国際映画祭の第68回が先日催され、受賞作品が発表されました。今回のパルム・ドールはJacques AUDIARD監督のDHEEPAN。日本からの出品では、ある視点部門にて黒澤清監督の「岸辺の旅」が監督賞を受賞しました。
さて、そんな第68回カンヌ国際映画祭にノミネートされた日本の3作品と過去にノミネートされたおすすめの映画をご紹介します。これからの日本を担っていく監督と役者の渾身の作品たちです。
「岸辺の旅」黒澤清
(C)2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS
第68回カンヌ国際映画祭の“ある視点部門”にて、監督賞を受賞した作品。黒澤清監督は2008年の『トウキョウソナタ』で審査員受賞以来、2度目の受賞となりました。空想でありつつ、リアルを感じるようなホームドラマを制作しており、出演者の表情やが人間くさい感じるのが特徴の監督です。
3年間、失踪していた夫が突然帰ってきた。だが、夫は「俺、死んだよ」と妻に告げる。
そして、夫が過ごした最期の時間をめぐる、夫婦ふたりの旅がはじまった。
“死んだ夫と旅をする”。
それは、あなたを見おくり、言えなかった「さようなら」を伝えるための旅路。
数々の映画賞を受賞している深津絵里、浅野忠信の2人の間に漂う“永遠の別れ”を惜しむ時間と空気感に思わず引き込まれてしまうこの作品。これから先も“あなたのぬくもりを忘れないように”と僅かな時間を大切に過ごしていく姿に共感してしまいます。
Reference:YouTube
「あん」河瀬直美
(C)2015映画「あん」製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE
こちらも“ある視点部門”のオープニングフィルムに正式出品された作品。海街diaryにも出演している樹木希林の主演映画です。
縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…
樹木希林演じる徳江が語るたびに、言葉は常にもろ刃の剣であるということを思い出します。出来ることならこれから先、人を傷つけるための道具としてではなく、人を優しい気持ちにするために使っていきたい、そう観客に思わせる物語りです。
Reference:YouTube
「海街diary」是枝裕和
(C)2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
吉田秋生のベストセラーコミックが映画化。監督を務めた是枝裕和氏は、「そして父になる」や「誰もしらない」なども手がけた海外でも高い評価を集めており、リアリティ溢れるストーリーと登場人物の細かい心理描写などが印象に残る映像を撮る監督です。
まぶしい光に包まれた夏の朝、鎌倉に住む三姉妹のもとに届いたのは、15年前家族を捨てた父の訃報。父の葬儀で出会った三姉妹の腹違いの妹すず(広瀬すず)に、長女の幸(綾瀬はるか)は「鎌倉で一緒に暮らさない?」と声を掛ける。同居することとなった四姉妹は、季節の食卓を囲み、それぞれの悩みや喜びを分かち合っていく。しかし、音信不通となっていた長女・次女・三女の母親が現れたことで、四姉妹に秘められていた心のトゲが見え始める。
公式サイトより抜粋
“いつまでも仲良くしあわせに”を願う家族。父の責任を娘が償わなければいけないわけではない、誰を攻めたって心のわだかまりが解決するわけでもない。けれどそう上手く納得できないのが人間心理。その移りゆく心理描写に引き込まれる作品。
Reference:YouTube
過去のノミネート作品をチェック!
第67回(2014年)「2つ目の窓」河瀬直美
(C)2014“FUTATSUME NO MADO”JFP, CDC, ARTE FC, LM.
3度のカンヌでの受賞歴をもち、今年のカンヌ出品作『あん』も手がけている河瀬直美監督の作品。叙情的な作品が印象深い監督です。
舞台は奄美大島。ユタ神様が祭祀を司り、人々は自然と神への畏敬の念とともに日々暮らしている。
界人(村上虹郎)はいつも男の影を感じさせる母・岬(渡辺真起子)にけがらわしさを感じていた。また界人の同級生である杏子(吉永淳)の母は病を抱え、死期を迎えつつあった。「ぬくもりはあなたの心に残るのだから」と母(松田美由紀)から声を掛けられても、杏子は母に近づく死を受け入れることができない。
それぞれの胸の裡を知り想い合いながらも、界人は杏子へどう応えればいいのか分からずにいた。
“生”の窓と“死”の窓の2つの窓をくぐりながら人は繋がっていく。そんな生命の営みを、高校生の成長と照らし合わせることで、すんなりと心に届くような物語です。
Reference:YouTube
第63回(2010年)「Chatroom(チャットルーム)」中田秀夫
[C]2010 RUBY FILMS [CHATROOM] LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, UK FILM COUNCIL & NOTTING HILL FILMS LIMITED
日本人なら誰でも知っている「リング」の制作をした中田秀夫監督が、活動の場をイギリスへ移して撮影した心理サスペンス。
家族を嫌いインターネットにはまるウィリアムは、ネット上で友達を作り、チャットルームで頻繁に会うようになる。チャットメンバーの内の一人、ジムは自分は鬱病だと打ち明ける。それを聞いたウィリアムはいいカモを見つけたと、彼を言葉巧みに操り自殺に追い込もうとする。ウィリアムのおかしな行動に気づいた他のメンバーはジムを救おうと、“現実の世界”でウィリアムと対峙しようとするが、時はすでに遅くジムはウィリアムから拳銃を受け取っていた・・・
いつでもどこでも人と繋がれるSNSの危険性に改めて恐怖を覚えます。また、“家族でいること”がどれだけ大切ということ。子供から見た自分が、どんな親であるべきか、どんな人であるべきか、一度考えてみたくなる作品です。
Reference:YouTube
第54回(2001年)「DISTANCE」是枝裕和
© 2001-2006 「ディスタンス」製作委員会
海街diaryの監督も努めた是枝裕和監督の作品。ARATA、伊勢谷友介、寺島進、浅野忠信などの豪華キャストが監督を支えます。
カルト教団の信者が128名が犠牲となるウィルスによる無差別殺人事件を起きる。その後実行犯たちは教団の手で殺害、教祖も自殺した。事件から3年目の夏。実行犯の遺族4人は、命日に彼らを慰めるため、殺害現場の湖へ向かう。その道中、犯行直前まで実行犯たちと行動を共にしていたという元信者の男が現れる。
アクシデントから、5人は一夜を過ごすことに。「私たちは被害者なのか、加害者なのか。私たちは何か確かなものを手にすることができたのだろうか」と目を背けてきた[記憶]と、自分自身に向き合っていく。
公式サイトより抜粋
テーマが斬新で賛否両論のこの映画。ほとんどアドリブ、そして自然光で撮影されたそうです。賛か否か、どちらに感じるかは見て確かめることをおすすめします。
Reference:YouTube
まずは邦画の奥深さから
微かな表情や、僅かな仕草、選ぶ言葉、その一つ一つに日本独特のこだわりをもつ邦画が、世界に認められるようになってきた昨今。身体すべてで日本を感じたいとき、心を洗いたいとき、そんな時こそ日本人が作り出すさまざまな形の「美」に触れてみるのはいかがでしょうか?