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余談の多いラジオ風テキスト「寒い日に聴きたい曲特集」

加藤広大 加藤広大


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さて、始まりました。と言っても何が始まったか分からないかと思いますが、わたくし、ここ『街角のクリエイティブ』にて、いろいろなモノを紹介させて頂いておりましたら、電脳世界上ではなく、現実世界の飲み屋で「広大ちゃーん、あれ見たよ。うへへ」と含み笑いで言われることが多くなりまして、「アレ書けコレ書け、いや、あれだけは書いてくれるな」とか各方面、ごく一部の趣味人の方からご依頼、ご指摘、ご指導ご鞭撻を受け、当方毎回おべんちゃらで返しております。

しかし、「普通にアレやコレやを紹介するのも、世の中に溢れすぎてるし、それってちょっと調べれば分かることだし、何か面白い、グルーヴィーな方法はねえかなあ」などと宿酔いの頭で考えた結果、それならば、「いっそ飲み屋で言われた“あれ書け”をリクエストに見立てて、書き起こしたラジオ風にやってみたらいいんじゃねぇか」と思いまして、まあこれ完全に“思いつき”ですし、そもそもそれって完全にラジオじゃないんですが、思い立ったが吉日と昔から言うのを思い出し、「思い立ってやったことって、だいたい上手く行かねえんだよなあ」と苦虫噛み潰しながら、今調べたらこれを書いている11月10日は「先勝」であります。

よく見ると、先勝とはどうやら「何事も急いで早く行うと幸運が舞い込む日」らしく、そこまで言うならもうやるしかねぇな、やろうかな。ってなわけで、前口上はこのくらいにしてさっそく、表題の件、始めたいと思うのですが、その前にもう少しだけ添え書きを。ジングルとでも思って読んでやってください。

ラジオ“風”とは言ってもここはインターネット地獄の一丁目、画像や動画など、いろいろな飛び道具が使えますので、それを駆使して音楽だけに収まらず、テーマに沿っていろいろなモノを紹介していこうと思います。もちろん、次回があればですが……

大体、テキストのみなら5分か10分、動画を見たり聴いたりすれば、だいたい35〜45分位の暇が潰せる番組になるように構成したいと思います。

というわけで、まずはオープニングテーマとして以下の曲を。最近はすっかり秋も深まり、冬が一歩一歩、近づいて来ているのをひしひしと感じます。わたくし先日30,000円もする60年代のウールチェスターコートを購入しまして、「今年の冬は寒くなれ、でないと元が取れない」と今から戦々恐々としております。そんな寒い日の、午前3時の街角で、白い息を吐きながら交差点で信号待ちをしている時に聴きたい一曲と言えばこれでございます。

Reference:YouTube

曲は新宿のトム・ウェイツと呼ばれた男、SIONの『午前3時の街角で』をお送りしました。山口県は下関に生まれ、地元のライブハウスを飛び出して、新宿の片隅で歌い始めたらこれがおおウケ、嗄れた声を武器にして、今でも夜の街の情景を歌い続けています。永瀬正敏主演のドラマ『私立探偵濱マイク』の12話で知ったという方も多いのではないでしょうか。ちなみに、その時のエンディングテーマもSIONの『通報されるくらいに』という曲でしたね。こちらも名曲です。

さて、今回のメインテーマですが、飲み屋で出会ったおっさんからのお便り、という名のリクエストが届いております。

「寒い日に聞きたい曲を教えろ、ジャンルは問わない」
投稿者:人生ずっと冬(52歳会社役員)

1年365日、春夏秋冬、子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥、15、16、17と、そのタイミングや空気感で聴きたい曲ってえのは誰にでもあるもんです。ちょっと前から今時期ですと、金木犀や柚子の香りがしてきたら、ふと思い出すあのメロディ、夜中に外をほっつき歩いて、ほっぺたが冷たくなったら頭に響くあの名曲、いろいろありますよね。

そんなわけで、リクエストにお応えしまして「寒い時期に聴きたい曲」を拙宅のレコード棚から見繕ってご紹介します。ただレコードを出したと言っても、家から思念を飛ばして音は伝えられませんので、結局音源はYouTubeになりますがご勘弁を。気に入ったらぜひ音源を購入するなり、配信サイトか何かで検索し、楽しんでくださいませ。まず一曲目はコチラです。

Reference:YouTube

いきなりド直球のド定番、そしてやっぱりド名盤のチェット・ベイカー『Autumn Leaves(邦題:枯葉)』でございました。キャノンボール・アダレイとマイルス・デイビスが共演した枯葉も良いですが、冬に聴きたいのはやはりこちらのバージョンです。

木枯らしのように疾走するリズムを聴きながら、冬の道をポケットに手を突っ込んで少々スカして歩いたならば、気分はもう稀代のモテ男、チェット・ベイカー(の歯を折られる以前の若い頃)です。これ、やってみると最高に気持ちいいんですけど、傍から観るとめちゃくちゃダッサイ状態になっていることがあるので、皆様人目の多い街中でやる場合はお気をつけのほどを。

パーソネルはチェット・ベイカー(Trumpet, Vocals)、ロン・カーター(Bass)、ボブ・ジェームス(Piano, Keyboard)、ポール・デスモンド(Alto Saxophone)、スティーブ・ガッド(Drums)、ミルト・ジャクソン(Vibes)です。戦隊物に例えるならば全員アカレンジャーという錚々たる面子だと言えるでしょう。ジャズの世界はこういうオールスター的な感じが多いですね。ライナーノーツで参加ミュージシャンを見ているだけで、ご飯は食べられませんがウィスキーならノーチェイサーで3杯は飲めます。

お次はThe Style Council(スタイル・カウンシル)のファーストアルバム『Cafe Bleu』に収録されている『My ever changing moods』です。

Reference:YouTube

これ、冬の冷たい空気の中で聴くと、まさにブルーなポール・ウェラーの声が深みを増します。寒い寒い夜更けに、終電を逃したナイトホークスたちが集う少し広めの音楽バーで、カウンターには2、3人という状況で聴くのもオススメです。

そういえば、ポール・ウェラーの声は、The Jam時代が一番老けていたと思うのは私だけでしょうか。ちなみにこの曲は別バージョンがあるのですが、そちらの曲調は、日曜の朝に流れていそうな非常に明るい曲調になっています。

これは夜に聴くよりは、真っ青な冬晴れの日差しが暖かい日に、並木道でも歩きながら聴いてください。きっとあなたは気付けばスキップをし、薬局で洗剤を買い、カルディか何かで使いどころが分からないおしゃれな調味料や生ハム、レバーパテ等を購入し、近所のパン屋でバゲットを買い、パテをぬりぬりしながら鼻歌交じりに家で昼食を拵えているはずです。

余談ですが、というかわたくしの話、ほぼ全部余談ですが、ポール・ウェラーの息子、ナット・ウェラーは昨年、なぜか日本でデビューしています。しかも日本語で歌っています。親が伝説的なミュージシャンにもかかわらず、「好きなアーティストはGACKT」と答えるなど、その日本好きは相当なものです。彼いわく「いつの日かJ-POPを世界に伝えたい」とのことで、その日本を愛する意気たるや“音楽版ラモス瑠偉”と言っても過言ではないでしょう。

話を戻して、次の曲にいってみましょう。久しぶりに我が家のレコード棚から発掘されました。“永遠に隠れた名盤”として名高い、アーニー・グレアムの『Belfast』です。

Reference:YouTube

この曲、完全に演歌です。それもそのはず、タイトルと同じく、アーニー・グレアムは北アイルランドはベルファスト出身です。ベルファストと言えば、かのタイタニック号が造られた世界最大の乾ドックがあり、ヴィクトリア朝時代の建物が立ち並ぶ商工業都市として有名です。

船と言えば演歌、演歌と言えば船。つまりこれはベルファスト版演歌なのです。そして船、演歌といえば日本酒です。この曲にも日本酒が良く合います。もちろん、正当にアイリッシュ・ウイスキーでも良いでしょう。ブラックブッシュ、タラモア・デューあたりをストレート、または濃い水割りにして一口含み、鼻に抜ける香りを楽しみながら目を閉じれば、そこはもう冬のベルファストです。行ったことないですけど。

ところで、このアーニー・グレアム、残念ながらアルバムを1枚出しただけでその後のキャリアはありません。しかしながら、バックバンドもプリンズリー・シュウォーツやヘルプ・ユアセルフといった当時のパブ・ロック界のスーパースターたちを起用するなど、レコード会社(スティッフ・レコード)としては期待のアーティストだったようです。

しかし、残念ながらまったく売れませんでしたし、流行りませんでした。その歌声は、ともすれば泥臭いボブ・ディランのようでもあり、アルバムにはザ・バンドを彷彿とさせる曲も収録されています。素晴らしいです。素晴らしいんですが、だからこそ、「曲良いんだけど、それならボブ・ディランとかザ・バンドとか聴けばいいしなあ〜」と、“あまりに佳作すぎた”というのが売れなかった原因なのではないでしょうか。

日本酒の話がちょいと出ましたので、最後に日本の歌も一曲いれておきましょう。

Reference:YouTube

蛇の目に仕込んだ白刃が、華麗に開く修羅の舞。母の恨みを獄舎で背負い、雪の降る日に生まれた女。鹿島雪を演じるは梶芽衣子、寒い日に聴きたい、そして日本酒に合う冬の歌と言えばやはり『修羅の花』でしょう。

1973年に公開された映画『修羅雪姫』のメインテーマであるこの曲は、主演の梶芽衣子が歌っています。若い方は、映画『キル・ビル』の劇中で『修羅の花』、エンディングテーマで『恨み節』が流れていたと聞くとピンとくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

雪の降る中、傘をさしてこの曲を聴きながら歩けば、熱い情も女の性も、知らずに過ぎた蛇の目傘ひとつ、復讐に燃える主人公、鹿島雪と化すことが可能です。が、短刀の所持は法律違反にあたるので、とりあえずホッカイロでも懐に忍ばせ、にぎにぎしながら歩くのが無難でしょう。

そして、近くの小料理屋にでも出掛けて暖簾をくぐり、少し熱めに燗を付てもらい、なめろうやら、炊いた大根などをアテにしながら雪のチラつく外をぼんやり眺め、「涙はとうに、捨てました」と呟けば、ドン引きした両隣がサーッと距離を取るはずですので、できたスペースにもう2、3品並べて夜を楽しみましょう。

さて、無駄話もはさみながら駆け足でお送りしてきました今回の「寒い日に聴きたい曲特集」。何の時間かは分かりませんが、そろそろお時間がやって参りました。

今年の冬のうんと寒い日は、お気に入りの曲をスマートフォンに入れて、自分だけのサウンドトラックを作り、夜の街を練り歩いてみたり、馴染みの飲み屋に出掛けてみてはいかがでしょうか。

わたくしも、今から大枚はたいたコートを羽織ってハットを被り、どこかの店に飲みに出掛けようと思います。もちろん、冬に聴きたい大好きな歌を聴きながら。それでは皆さん、ありがとうございました。

街角のクリエイティブ ロゴ


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