無職のタナカです【連載】ひろのぶ雑記

田中泰延 田中泰延


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前回の記事はこちら:はじまりのはじまり【連載】ひろのぶ雑記
 
 
わたしは47歳にして無職になった。

なったわけだが、なにかカッコイイ言い方はないのか。

無職という響きにはなんともいえないペーソスがある。世界大百科事典 第2版によると、

ペーソス【pathos】「そこはかとなく身にせまる悲しい情感」
引用:『世界大百科事典 第2版』(1998年)日立デジタル平凡社

とある。

ペヤングソースやきそばはおいしいが、ペーソスはさびしいのである。

かっこいい無職の呼び方をいろいろ考えてみた。無職も呼び方次第でペーソスを除去できるのではないか。会社に行かなくて済む時間をぜんぶそれに当てて、考えた結果がこれだ。

青年失業家。

どうであろう。この颯爽とした響き。自分はもはや青年ではないような気もするが、サイバーエージェントの藤田社長も43歳にして青年実業家と書かれている記事を読んだことがある。47歳の私が青年と名乗ったからといって罰を受けるだろうか。罰なら失業した時点で十分に受けているのだから許してほしい。

さて、青年失業家として世間を歩いてみると、意外なことに気がついた。

夜、なんとなく居酒屋にひとりでフラッと入ってみたときのことである。無収入のくせにと言われそうだが、飲酒する自由は憲法で保障されている。

とある会社員の一団がいた。27、8歳ぐらいの男子が、5、6人であろうか。

関係ないが、居酒屋に5、6人で行ったとき、最初の注文で「とりあえずビール。大瓶2、3本持ってきて」という客がいる。こんな頼み方は日本だけではないだろうか。アメリカで最初のオーダーで「ビア、ツー・オア・スリー、プリーズ」などと頼む客はいないと断言する。店員の方はツーなのかスリーなのかハッキリしろと言うだろうし、ことによってはそれでは済まないのが訴訟大国アメリカである。

アメリカの裁判の話はそのぐらいにして、居酒屋の一団に目を戻してほしい。見ると、有名なテレビ局のバッジが全員の背広の胸に光っている。聞き耳をたてると、さかんに部長人事の話、ボーナス査定の話、同期の誰々は昇進しただの、○○さんの仕事の進め方マジ尊敬してるんすよね〜話など、延々とティピカルなサラリーマントークを展開している。

そのとき、思ったのだ。

「なんか、こいつら・・・イキってる」

と。

ひとつの組織に属して、同じバッジをつけて、道を横一線になって歩く、そんなGメン75みたいな、いやそこは滑走路ですよみたいな、飛行機の離発着の邪魔みたいな、そんな組織の人々。


出典:YouTube

みな、ものすごくイキってみえるのだ。

いや、本人らは別にイキっているつもりはないかもしれない。

だが、居酒屋から電話をかけ、「もしもし? ○○テレビの安藤だけど、」みたいにまず所属を述べ、仕事かと思ったら女の子を呼び出してるだけだったし、しばらくしたら呼ばれた女の子は本当に来たし、美人だったし、なんかもう、やっぱりイキっているのである。

その姿を見ていると、つい1ヶ月前までイキっていたのは、自分だったことに気がついた。

「もしもし? 電通のタナカですけど」とまず所属を述べるのは私だったし、会社の中の話を大声でするのも私だったし、電通が作った有名なコマーシャルを「あのCM? あれさ、オレの隣の席の後輩の同期が東京本社で作ったんだよね」とほとんど風が吹いたら桶屋が儲かる式に話をするのも私だったし、電通の誰々さんが活躍したら括約筋が締まるぐらい自慢していたのも私だった。

最後のはよくわからないが、イキるというのはそういうことであろう。

私は、このへんで残りの人生を、組織の中で「イキる日々」から、ふつうに「生きる日々」にしたくなったのだ。

「電通のタナカです」という切り出しより、「無職のタナカです」という自己紹介の方が、みんな笑ってくれる。イキっていたころより、少し人を幸せにできて、とてもうれしい毎日なのである。

いまのところ名刺もないので、青年失業家と肩書きを入れてプリントゴッコでつくろうと思う。

来週2月15日(水曜日)は、雑記ではなく、映画のお話、『田中泰延のエンタメ新党』です。もちろんまだ1文字も書けていません。それ以前に映画すら観ていません。しかし書かないとこの世に居場所がなさすぎる。失業した上に書く場所もなくなるのではないかという恐怖に怯えながらなんとかします。なに観に行こうかな。映画代・・・あるかな。

【1回目の「ひろのぶ雑記」はこちら】
はじまりのはじまり

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