アムステルダムの中心部、ダムスクエアにある新教会（De Nieuwe Kerk=ドゥ ニューブ ケルク）で行われた世界報道写真展『WorldPhotoPress』。2014年度もこの写真展に足を運び感銘を受けた私は、今年は最終日でもある7月5日に再び足を運んだ。日本でも有名な写真展であるWorldPhotoPressは、1955年にオランダのアムステルダムで、世界報道写真財団が発足したことで始まったドキュメンタリー、報道写真の展覧会である。そして1年を通じて、世界の45カ国約100会場（2014年実績）で開かれ、約200万人が会場に足を運ぶ世界最大規模の写真展である。アムステルダムは150カ国の人種が集まる場所という事もあり、様々な国籍や多くの観光客の姿を見る事が出来た。写真展が教会という特別な空間で行われ、まるで異世界の中に足を踏み入れたように感じた。
今年の「第58回 世界報道写真コンテスト」には、131の国と地域、5,692人の写真家から、合計9万7,912点の作品が応募された。今年の大賞受賞者は、デンマークのマッズ・ニッセン氏が、ロシアで同性愛の男性2人の姿を撮影した作品となった。「ロシアでは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー（LGBT）の暮らしが、ますます困難になっており、性的少数者は、法的、社会的差別や嫌がらせ、犯罪の被害にさらされている」と同氏。昨年の大賞も、血を流した争いでの一枚ではなく、社会問題から生まれた一枚であった。
世界中で起こる「見える現実、知られざる真実」を様々な写真の1枚を目の当たりにし、今を生きるという事、そして世界で起こっている事の生々しさを感じずにはいられなかった。2014-2015年の短い1年間でニュースでは触れることの出来ない、日常では決して目にすることの無い真実や現実。ボコハラムの誘拐事件、世界各地の内戦、イタリアの難民問題、イラン人の死刑囚をビンタで許した遺族、中国のスモッグ、アメリカのサンデースクール…言葉では無く、写真が現実を描写していた。
そんな中で私が印象的だった写真がある。日本のスーツを着てネクタイを締めた男性達が、マクドナルドで横並びになっている写真である。この写真家が「何を伝えたいのか？ 何に違和感を感じたのか？」この写真を見て私自身、色々と考えさせられた。個人的な意見ではあるが、この記事を読んでくれる方にも、考える1枚であって欲しいと願っている。なぜならこの写真は日本の日常の風景で、どこでも見る事が出来るからである。そしてこの写真の被写体が自分であっても、なんら不思議ではないからである。
また写真だけでは無く、5作品ほど映像が公開されていた。その映像作品にも、イタリアにたどり着いた難民達の様子を撮った作品、またニューヨークポリスによる黒人差別等を取り上げた作品があった。また日本のサラリーマンが鬱病で仕事を無くして、ネットカフェ難民になる様子について取り上げた約10分の作品も公開されていた。以前、日本でサラリーマン生活を行なっていた私はこのリアルな日本の現状に身をつまされるような思いだった。私が印象に残った写真、そしてネットカフェ難民の映像は今の日本社会に警鐘を促すものかもしれない。
日本では全国7都市(東京、大阪、埼玉、京都、滋賀、大分、広島)で行われ、最終地の広島では11月18日まで行われている（※東京は終了）。日程はWorldPhotoPressの本サイト（世界報道写真展2015：開催概要）から是非、チェックして貰いたい。この機会に、世界で今、何が起こっているか写真を通じて、是非多くの人に知って欲しいと思う。改めて写真とは時代のリアルを映し出す鏡だと強く思った。私は一人の写真が大好きな者として、世界中で多くの人々の笑顔を捉えた写真が増える事を心から願う。
