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ノンケの女子を脳から口説こうとして肉を手に入れた話

岡田麻沙 岡田麻沙


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そんな風にして、一年が過ぎた。
 

わたしはゆっくりと理解していった。カス男の話をするTちゃんが、なぜこうも生き生きとしているのか。なぜわたしがその男を「カスだ」と感じてしまうのか。彼女が語る数々のエピソードはそれ自体が、「にもかかわらず好きである」ことの証左に他ならなかった。Tちゃんは「男がカスであること」を語る度に、己の愛情を確かめていたのだ。日を追うにつれ、語られる内容は陰惨を極め、それに反して彼女の表情はどこまでも、甘くとろけていった。わたしが失恋を完全に受け入れたころ、Tちゃんは「カス男と付き合うことになった」ことを教えてくれた
 
これが、ノンケの女子を脳から口説こうとした話の全てだ。Tちゃんを口説こうとしている間にわたしは2キロ増量した。結局、この失恋には一年を要したことになる。その一年間はまた、わたしにとって、自分がバイセクシュアルであることを新たな形で受け入れていく特別な時間でもあった。<Tちゃんとカス男の関係>は、<わたしとセクシュアリティの関係>そのままであった。沢山の不満を抱えた当時のわたしは、「にもかかわらず自分である」ことを、その甘さと苦さを、心ゆくまで味わっていたのだ。
 
わたしはいまでも、ノンケの女子を上手に口説くことができない。だが、現状にはわりと満足している。Tちゃんと共に脳汁を出しながら太り続けたあの一年間のおかげで、乗りこなせる性など存在しないという、当たり前の事実に気付いたからだ。ノンケの女子を脳から口説こうとして、失恋した。でも、自分に失恋する日はもうこないだろう。

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