で、A君もほとほと疲れていたから「これで終わりになれば」と思って出張校正を引き受けて、Bさんの会社に行くことになっちゃった。
案の定、Bさんは後ろから見てはあれこれケチを付けてくる。「もっとシャープに」とか「赤をフレッシュな感じで」とか、これがまた抽象的で、的はずれな意見なんだ。だから、その通りに修正してみせると「あ、やっぱ違うなあ」となる。
A君はもう頭にカーーーッと血が上っちゃって、怒りを通り越してもう「徹底的に気が済むまでやってやろう」って気分になっちゃって、どんどん修正を繰り返していたら、そりゃデザインはぐちゃぐちゃになって、ダサくなっていっちゃう。
でも、Bさんは自分で「やってる感」っていうのがあるんでしょうね。不思議とだんだん納得してくる。納期の問題もあったし、疲れたんでしょう。最終的には
「じゃあこれでいこう、結構良くなったんじゃない?」
って言うんですよ。デザイン、滅茶苦茶なことになってんのに。
A君はもう喧嘩する気力もないんで「これで終わればいいか」とぐったりしちゃって
「じゃあ・・・これでいきましょうか」
と持ち帰って、入稿用に折り指示とか付けてデータを作りはじめた。すっかり深夜、丑三つ時にどこからか音がする。
ブーン
ブーンブーン
ブーンブーンブーン・・・
電話が鳴ったんだな。
背筋がゾクーッとして、ディスプレイをみると、着信先はBさん、「よせよ、おい」と思って携帯を耳に当てる。
「はい」
「ちょっと差し替えたい画像があるんだけど、会社のホームページ開ける?」
「おえっ、ゔぉえっ」
A君はもう気持ちが悪くなっちゃって、でもまあ、ホームページを開いて
「開きました」
「あ、じゃあ会社概要のページ開いて、そこの写真をドーンと背景画像にしてくれない?」
ってBさんが言うもんだから
「元の写真はありますか? 小さくて使えないんで」
って返したんです。そしたら
「元の写真はないから、それ使っちゃって」
再び背筋がゾクーッとしちゃって、もう手もぶるぶる震えちゃって、なんとか声を絞りだしてね
「画像、荒れちゃいますよ!」
もう必死ですよ。必死に訴えたんだ。けど
「荒れちゃってもいいんで」
と返されちゃったから、これはもう仕方ない。入稿作業を中止して、写真を差し替えて送ったんだ。
そうすると、再びどこからか音が聞こえる
ブーン
ブーンブーン
ブーンブーンブーン・・・
電話が鳴ったんだな。
「またかよ、もう、かんべんしてくれよ、かんべんしてくれよ」
そう思いながら出ると
「うーん、やっぱり無しで、というか、明日また会社にこれない?」
聞いた瞬間にA君の目の前がサーッと暗くなって、その場に倒そうになった。でも彼にも意地があったんだな、「もう、最後まで付き合ってやる」と。結局また次の日、行くことになった。