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話題の「ポカリNEO合唱」はどう生まれたのか。クリエーティブディレクター2人へのインタビュー

西島知宏 西島知宏


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ポカリNEO合唱

2020年4月10日にYouTube上で公開され、瞬く間にSNS上で話題となった大塚製薬、ポカリスエット「ポカリNEO合唱」キャンペーン。同キャンペーンのクリエーティブディレクター(以下、CD)である正親篤氏と、デジタル領域のクリエーティブディレクターである眞鍋亮平氏に、ビデオ会議システムZoomを使用し、インタビューを行いました。

正親篤(おおぎあつし)
株式会社なかよしデザイン クリエーティブディレクター・アートディレクター・CMプランナー

眞鍋亮平(まなべりょうへい)
株式会社電通 統括クリエーティブディレクター

出典:YouTube

――4月10日に公開され、SNSを起点に大きな話題となった「ポカリNEO合唱」ですが、当初は500人ほどで合唱するという企画だったと伺いました。昨年までのような、スケール感のあるダンス企画の合唱バージョンのようなものだったのでしょうか?

正親:シンプルに言うとそうです。ただ、昨年までの企画は、どこまでいっても体育会系の高校生しか参加できない感じが少し気になっていて。今年は文化系の子たちも入れる企画がいいな、と考えてたのが1つ。もう1つはクライアントも僕たち広告会社側の人間も、今回はダンスと違うことをやってみたいというのがありました。

――4月17日からテレビCMとしてもオンエアされている自撮り撮影を行った「ポカリNEO合唱」は、もともとデジタル施策だったと伺いました。デジタル施策としてもムービーとして完成させる企画だったのでしょうか?

眞鍋:この4年間ダンスで、学生のみなさんから募集した動画を編集してテレビCMやWEBムービーにしてきました。それを合唱でやるという企画は既にクライアントに提案していて、TikTokで募集したものをミュージックビデオにするという企画も決まっていました。そこへ新型コロナウイルスがきて、CMの撮影をするのが難しいとなった時に、正親さんとディレクターの柳沢翔さんが相談して、デジタルでやろうとしていた企画をスライドさせることになりました。

――「ポカリNEO合唱」がSNSで盛り上がった理由の1つに、スピード感があったと感じています。2月27日に休校要請が出て、3月初旬から中旬にかけて軒並み卒業式が中止になったというのがあり、4月10日に自撮りをベースに作られたこのCMがもの凄いクオリティで世の中に登場したものだから、みんなが度肝を抜かれたというのがあると思うのですが、スピードという点において意識的に動かれた所はあるのでしょうか。


ポカリNEO合唱スケジュール

正親:これ、自撮りでやるという企画自体は割と何でもないものじゃないですか。だからスピードが一番大事だとみんな思ってて。大塚製薬って担当者への試写の次が社長試写なんですが、社長へ仮編試写した時に「これ、いつから出せるの?」と聞かれて。「4月17日です」って言ったら「1日でも早く出して欲しい」と言われたんですね。じゃあオンエアは無理ですけど、デジタルは1週間前倒しで4月10日アップでやりましょうか、という流れになって。

――クライアントの希望もあってのスピード感だったんですね。

正親:今回、経営者ならではの嗅覚をすごく感じたんですけど、九州新幹線の時も実はそういうことがあって。今JR九州の会長になられている、当時社長の唐池恒二さんに試写していただいた時、開業日が3月12日なのでオンエアも3月12日からの予定だったんですが「いいのが出来たのだから1日でも早く流して欲しい」と言われたと担当の方から聞いて。「いやいや、開業日の3月12日に合わせるのがセオリーじゃないですか」って言ったんですけど、でも社長が譲らないって話になり、3日ほど前倒しのオンエアになったんですよ。そして、予定より早く流れたものを誰かがYouTubeに上げてくれて、3月11日に東日本大震災が起こった。3月11日以降のオンエアは中止になりCMはその後お蔵入りになったんですが、公式でも何でもない誰かが上げたその動画が何百万再生もされたんです。

※正親篤さんは九州新幹線全線開業「祝!九州」キャンペーンでもアートディレクターと企画を担当

――当初の予定通り3月12日のオンエアだったら、ネットにも上がってない可能性が高かったということですよね。

正親:上がってなかったですね。本当に幻のCMになってた。話は戻りますけど、「ポカリNEO合唱」の試写で社長から「1日でも早くできないですか?」って言われた時「あ、同じ判断だわ」と思って、そういう無茶な判断が実は正しいのかもしれないからって、スタッフに「1日でも早くやってくれないかな」と僕からも頼んだんです。みんな大変だったと思います。

眞鍋:1週間前倒しになって、デジタルとPRはメチャクチャ大変でした(笑)。クライアントも「オフラインでもいいから流したい」って言ってたくらいなので。「本編集を待たなくても1日でも早い方が」というクライアントの判断で、でもそれが正しいと思えたから、みんなで早く出そうと頑張れた。

――仮編の試写はいつだったんですか?

眞鍋:(スケジュール帳を見て)4月6日の13時から13時半ですね。

――4月10日まで4日しかない。仮編から完パケは、どの程度変わってるんですか?

正親:音楽は結構変わってますね。基本同録のやつをミックスするので、音楽が一番大変だったと思います。あとはフィルムレコーディングを超特急でしていただいて、全体に統一感とか肌触りを出してもらっています。

――楽曲の途中で「仰げば尊し」が入りますけど、あれは昨年企画が立ち上がった時からあったのでしょうか?

正親:このキャンペーンの全てに言えることなんですが、コロナ用には何も変えてないんです。合唱もそうだし、自撮りっていうのも、もともとデジタルで想定していたことなので、コロナに合わせて何かを変えるということはやってないです。九州新幹線の時に学んだことで、何かがあったからって、もともと決めてたメッセージを変えちゃダメなんじゃないかなと思います。今回はタイミングが早かっただけで、もともと決めていたことをやったからうまくいった。「仰げば尊し」も最初から入ってましたし、曲自体も変わってない。「4月のオンエアなのに仰げば尊しって大丈夫なの?」と言ってたくらいなので。

――そうすると、「渇きを力に変えてゆく。」というコピーも元からということですよね。

正親:こういう非常時ってやっぱり命に近いブランドじゃないとうまくいかないのかなと思います。「渇きを力に変えてゆく。」というコピーもポカリスエットがもともと持っているものを表現しているから、いつ出しても受け入れてもらえるわけで、コロナがあるからとコピーを変えても多分うまくいかなかったと思います。

――2015年、正親さんたちのチームが担当された際の最初のコピーが「自分は、きっと想像以上だ。」「潜在能力をひき出せ。」で、それが2018年まで続いて、昨年は「汗は君のために流れる。」というコピーに変わった。そして、今年は「渇きを力に変えてゆく。」というコピーになった。2015年から「全力で頑張る人を応援する」というコアの考え方は変わっていないんでしょうか?

正親:いえ、いろいろやりながら考えも変わって、最近は「応援する」っておこがましいなと感じています。去年ぐらいからはむしろ「寄り添う」だとか「高校生から力をもらう」という考え方でやっています。ポカリスエットからは「頑張れ」とは言ってない、むしろ高校生から力をもらうっていう。言葉にしてないから伝わらないけどハートの設計ではそうなっています。ずっと高校生たちと特殊なやりかたでCMを作ってきて、練習して、2か月とか踊ってメイキング撮ってると、メチャクチャいいんですよ高校生って。CMよりメイキングのほうがいいんじゃないかと思えるくらい。だから、僕自身が高校生から力をもらえていて、そこで感じたことをちゃんとCMにしたいと思って。

――眞鍋さんとしては、2015年からの流れがあって、いま正親さんが仰ったコアの考え方の変化に合わせて、デジタルやPRをチューニングされた所はあるんですか?

眞鍋:デジタルもホップステップジャンプみたいな感じで。2015年から「潜在能力をひき出せ。」のキャンペーンが始まり、ガチダンス、ガチダンス FES、青ダンスがある。今年もダンスという選択肢もあったけど、クライアント含めチームとしては次のチャレンジをしたかったので、今回は合唱で高校生から力をもらう企画にシフトしました。

――ポカリの約4300人のガチダンスFESは天候予備がなかったと伺いました。古川裕也さんの著書『すべての仕事はクリエイティブディレクションである。』には、九州新幹線も天候予備がなかったという記述がありましたが、両方天候予備がないというのは、あえて賭けに出るまでがセットになってたりするんですか?(笑)

正親:ないない(笑)。天候予備が持てないんですよ。九州新幹線なんかはスタッフ含めて何万人もが参加して、ガチダンス FESに参加してくれた4348人の中には地方から出てきてる人もいるし。ガチダンスFESの時は1、2か月前に日程を決めないと場所が借りられない。しかも「開催日はもう梅雨に入ってるじゃん」って馬鹿ですよね(笑)。

眞鍋:みんなの運を使っちゃってる感覚はありましたよね、あの年は。

正親:1週間で、あそこしか晴れなかったもんね。

――雨降ったらどうするか、というのも一応考えておくんですよね?

正親:いや、みんな降ったら降ったでやるぞって言ってたけど、悪いことってなかなか想像できないんですよね、人って。

――じゃ、祈るのみっていう。

正親:そうそう(笑)。

眞鍋:毎回思うんですけど、それにOK出してくれるクライアントがすごいですよね。

正親:最初の質問に戻るんですけど、スピードということでもクライアントの方たちが一番えらいです。こっちの提案に耳を傾ける姿勢ができている。そこがすべてだと思います。

眞鍋:4年間やってきたのがやっぱり大きいというか。今回、そもそも学生のみなさんから送られて来た動画を編集していいものができるのかとか、クライアント側も心配があったと思いますけど、4年間積み重ねてきた信頼関係があったから乗り切れたというか。あとは毎回、正親さんと私、チームのみんなで走りながら考えてるんですよ。はじめのプレゼンで年間のキャンペーンは提案するんだけど、SNSなどの世の中の反応を見ながら打ち手を変えていくというのをやってきたから、クライアントも我々も筋力ができたというか。

――4年間かけて築いてきた関係性があってこその「ポカリNEO合唱」だったんですね。

眞鍋:本当にそう思います。

正親:長年著名なクリエータの方々と広告を作られてきた、大塚製薬宣伝部の資産じゃないですかね。クリエイティブを信じるという姿勢はすごいなと思いますし、とてもありがたいです。

――カロリーメイトの広告とか見ててもそんな感じしますもんね。

正親:そうですね。マーケティングから発想しないっていうか、なかなか他の企業が真似しようと思っても難しいですよね。

――今回、実現の部分も相当大変だったと想像するんですが、監督の柳沢翔さんや制作会社のスプーンさんのお仕事の部分で印象に残ってるエピソードはありますか?

正親:本当、柳沢さんと石橋さんをはじめスプーンのみなさんのおかげでした。スプーンさんも担当していただいたのは今年からだし、普通だったらビビってしまうような企画ですし。

――歴史のあるブランドで、この企画をやるということですもんね。

正親:柳沢さんがありがたいことにポカリのCMがずっと好きで、今回本気の熱い姿勢で取り組んでくださったのも大きかったですね。

――Facebookで「広告の世界に入って、いつかは関わりたいと思っていたポカリのCMに参加できました」と書かれていた投稿を見かけました。

眞鍋:そうそう、Facebookに熱い感じで書いてくれてるんですよ。

正親:CMの撮影が難しくなって、3月1日に柳沢さんに「実はデジタルでこういう企画が進んでて、これをCM にできないかなと思うんだけど」と相談したら「いいですね」って言ってくれて。その場で音楽プロダクションに電話してくれて、やりましょうとなったんですよ。で、2日後にはスプーンさんが作ってくれたビデオコンテが上がってた。

――スプーンのスタッフの皆さんで作った「ポカリNEO合唱」ということですか?

正親:そうです、それを2日で作ってくれた。

――それを見て「これはいける」となったわけですか?

眞鍋:あと、学生のみなさんに送った、スプーンさんの映像資料も凄かったですよね 。

正親:凄かった。凄すぎてちょっとめんどくさかった(笑)。

――今後の展開として、ミュージックビデオを作られると思うんですけど、ミュージックビデオならではの企画性みたいなものはあるんでしょうか?

正親:まだどうしようかなと考えています。やっぱりこれからリモートで撮った映像が世の中に溢れてくると思うんですよ。その時に見てどうか、というのは考えています。

眞鍋:例年は「テレビ CM に出れるよ」ということでTikTok で募集してたんですけど、今年はそもそもテレビCM用の撮影ができないから、リモートでやれることを考えないといけないですね。

――最後に。今年の「ポカリNEO合唱」を踏まえて、来年度以降のポカリスエットキャンペーンの展開イメージなどありますか?

正親:本来今年にやりたかったことをこれから1年かけて答え合わせするというか。「やっとできたよ」って。今年やるはずだったものを1年かけてやると、今見てるのと違う感覚で見られると思いますし。そういうことができるといいなと思っています。

眞鍋:元々の企画の、柳沢さんの演出コンテも凄くて、みんな楽しみにしてたので。これからどうなるかわからないですけど、ぜひ実現したいですね。

――すごく楽しみにしています。たくさん聞きたいことを聞かせていただきました。インタビューしていてとても楽しく、感動しました。ありがとうございました。

正親・眞鍋:ありがとうございました。

ポカリNEO合唱スタッフリスト

[編集・文]西島知宏
[校閲]mame

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