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理想が高すぎる女【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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テロリン!

 

友人からLINEが届く。「デートどうだった?」

リンコは正直に打ち込む。「ダメだった。また今度話すわ」
また「リンコは理想が高い」とか、怒られるんだろうなぁ。家に帰るバスに乗り、リンコはスマホのカメラロールを開く。スクロールすること32回。親指をぴたっと止める。

そこに写っているのは、高校2年生のときバイトで一緒に働いたことのあるシュウヘイだ。身長175cm、直毛、大きすぎない目、大きすぎない鼻、大きすぎない口、控えめな頬、清潔な指、印象のない耳。

 

「・・・ほんとうは、シュウヘイがいい」。

 

リンコは小さく呟く。誰にも言えていない。リンコが、じつはシュウヘイのことが好きだということを。いや、好きだというのは強すぎるかもしれない。当時は、これが恋心だと気付かなかった。シュウヘイは1週間一緒に働いて、リンコに引き継ぎをしてすぐに辞めてしまった。連絡先も、いま何歳で、どこに住んでいるのかも知らない。Facebookで検索もしたが、下の名前で呼び合う文化のあったバイト先のせいで苗字をしらない。シュウヘイは無限に出てくるし、バイト仲間の誰とも繋がっていないようだった。

 

本当は、なで肩も耳たぶもどうでもいいんだ。理想も高くない。ただ、シュウヘイがいいだけなんだ。

 

バスが発車する。揺れるバスの中で、リンコは少し、泣いたのだった。

 

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