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お義理よ今夜もありがとう【連載】ひろのぶ雑記

田中泰延 田中泰延


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この「ひろのぶ雑記」というのももう28回も連載している。雑記というだけあって雑に書けばいいはずなのだが、根が真面目なのか根が巨根なのかなんなのか、つい一生懸命書いてしまう。これではいかん。そういうビジネスモデルではなかったはずだ。もっと楽に書いてベンチャーキャピタルから出資を募り、マザーズに上場しておれ自身は33.4%の株式を持ったままイグジットする、そんなプランだったはずだ。
 

今回は肩の力を抜いて好きなCDの話をしよう。どれくらい力が抜けているかというと、今回の題名は本文の中身と関係ないのだ。関係ないのに西島編集長は筆文字で題名を書かされたのだ。ものすごくいい加減な事に他人を巻き込んでこそ、力が抜けているといえよう。
 

それにしても、随筆だのエッセイだの雑記だのは、「何が書いてあるか」ではなく、「誰が書いたか」の方が百億万兆倍ぐらい重要である。小松菜奈の好きなCDが、万が一「deeps」が歌うテレビ朝日系ドラマ『おそるべしっっ!!!音無可憐さん』主題歌の『ハピネス』だったとしてもみんな「なるほど素晴らしい」と言うだろう。
 

Reference:YouTube

1997年にデビューした「deeps」は「SPEED」のプロデューサー伊秩弘将が「SPEED」を反対読みした名前をつけたグループで、「歌っても踊っても上手いグループSPEEDの真逆を目指す」というひどいコンセプトで作られた。
 

上手いグループの真逆を目指すって・・・いくらなんでもこれはヘタすぎるだろう。彗星のようにデビューしたが、彗星のようには軌道に戻って来なかった。小松菜奈あなたはどういう趣味なんだと思ったが、おれが勝手に決めただけだった。だいたい小松菜奈が生まれた頃のB級アイドルなんて本人知るわけないでしょうすみません。
 

小松菜奈の好きなCDは知りようがないので田中泰延の好きなCDの話をする。ひどい。しかも自分のオールタイムベストを解説するとか評論するとかではなく、なんとなくである。ひどい。なんとなくでないと、真剣に好きなアルバムを挙げろとか言いだすと、何百枚にもなってしまう。とりあえず目についたやつ挙げていく。
 

『Solid State Survivor』YMO(1979年)

 

あら。なんたるわかりやすい名盤。じつは「生まれて初めてレコード屋さんでLPレコードを買った」のがこれなんである。一昨年、このジャケットを撮影した鋤田すきた正義さんにお目にかかってお話を伺った時は感動で震えた。
 

私は1969年生まれ。私たちの世代は、「音楽をアルバム単位で聴く」ことに重きを置いていた。また、1980年代から90年代、まだ世界にiPodもスマホもない時代、我々は車に「CDチェンジャー」というものを搭載してアルバムを聴いていたのである。「CDチェンジャー」というのは、小さなジュークボックスみたいなもので・・・説明すればするほど若い人には訳が分からなくなっていく典型だが、要するに何でもかんでも車には積めないので、好きなCDを10枚ばかり機械にぶち込んで、アルバムを通しで聴いていたのである。気に入らなかったCDは、その10枚からは落ちて家で埃を被る運命になる。なので私の場合、車に積んであるのは結局世間でいうところの「名盤」てやつばかりになってしまう傾向があった。
 

『A LONG VACATION』大滝詠一(1981年)

 

これもわかりやすい名盤で、レコード屋から大事に持って帰ったときの景色を覚えている。「擦り切れるほど」という表現があるが本当にLPの溝がなくなるくらい聴いた。のちにCDというものが発明された時、すぐにまた買った。ビニール盤では聴こえない音が発見できて嬉しかった記憶がある。まぁどれも今聴いても古くならないなぁ、と思う。
 

『The Nightfly』ドナルド・フェイゲン(1982年)

 

いやん。80年代丸出しすぎてなんだか恥ずかしいが、深夜の首都高を走る時にこれがないと不安になったものだ。
 

“Maxine”

Reference:YouTube

 

『Ballads』ジョン・コルトレーン(1962年)

 

深夜に車を走らせるといえば、これがないと今でも走れない。いまはYouTubeでもなんでもBluetoothでカーオーディオに音楽を飛ばせるので、あの曲が聴きたいのに車にない、なんてこともなくなってしまった。
 

“You Don’t Know What Love Is”

Reference:YouTube

 

車を走らせるときは、ラジオもいいのだが、やはり音楽があると一人でも身が持つ。これも何年かCDチェンジャーに入ったままだった。
 

『アンフォゲッタブル 』ナタリー・コール(1991年)

 

当時、ナタリー・コールと亡き父ナット・キング・コールのデュエットに泣いたものだが、先年、その娘も鬼籍に入ってしまった。
 

“Unforgettable”

Reference:YouTube

 

『ソウル・アローン』ダリル・ホール (1993年)

 

ブルー・アイド・ソウルは全体的に好きなんだけど、これはその中でも特に夜のドライブっぽい。
 

“I’m In a Philly Mood”

Reference:YouTube

車を走らせる時に聴く曲には、車を走らせること自体が歌になってるのも多い。
 

“Drive My Car”

Reference:YouTube

 

『RUBBER SOUL』ザ・ビートルズ(1965年)

 

当たり前だがビートルズなので名盤しかないんだが、アルバム『ラバー・ソウル』と『リボルバー』は「進化するとはどういうことか」をあっという間に理解できるすごいものだと思う。
 

『Cafe Bohemia』佐野元春 (1986年)

 

これはいきなり「土曜の午後 仕事で 車を走らせていた」と歌いだすアルバムである。なんだか休日出勤の友みたいだ。
 

『5th WHEEL 2 the COACH 』スチャダラパー (1995年)

 

アルバムタイトルは「馬車の5番目の車輪」・・・「蛇足」という意味である。1995年ごろから音楽ははっきりと「ビートとサンプリングとライムに舵を切った」という実感が強い。つまり「メロディーとアレンジと歌詞の終焉」である。それはそれで運転という単調な行為に便利なのである。これは何度も聴いた。
 

“B-BOYブンガク”

Reference:YouTube

 

車を走らせる時はハードロック/ヘビーメタルも便利だ。ブギーをその先祖に持ち、反復するギターリフでできているそれは、「メトロノーム代わり」になるからである。
 

『復讐の叫び』ジューダス・プリースト(1982年)

 

これなどLAからラスベガスまで車で走る時、ペースを保つために非常に重宝した。景色、砂漠しかないんだもん。

“You’ve Got Another Thing Comin’”

Reference:YouTube

 

『Afterburner』ZZトップ (1985年)

 

“Sleeping Bag”

Reference:YouTube

 

これもまさにメトロノーム的ブギーロック。80年代、音楽にデジタルの波が覆ってシーケンサーやエミュレータのポコポコした打ち込みが入り込みまくった時代の音が大好きなのである。今聴くと安い音なんだけど、そこがいい。また、こういうミュージックビデオが量産された80年代が面白くってしょうがない。こんな小芝居みたいなの、要る?
 

『アンダーカヴァー 』ザ・ローリング・ストーンズ (1983年)

 

これはジャケ買いもいいとこだ。車のダッシュボードにもこのジャケットを置いていた。ストーンズは好きを通り越しているが、これも上記と同じで80年代特有の「ポコポコした打ち込みと変なプロモビデオ」の二重奏だ。
 

“Undercover Of The Night”

Reference:YouTube

 

『The Pros and Cons of Hitch Hiking』ロジャー・ウォーターズ (1984年)

 

またしてもジャケ買いだ。しかし聴いてびっくり、ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズによる、まるで意識の内面がそのまま音になったような大傑作だった。エリック・クラプトンのギターも神がかっている。
 

“4:30 AM (Apparently They Were Travelling Abroad)”

Reference:YouTube

 

どんな音楽を聴いてきたのかを語るのはとても恥ずかしい。それは映画でも食べ物でもなんでもそうなのだが、開示してしまうと、自分が何でできているかたちどころにわかってしまう。
 

という締めの言葉も前回から流用した。肩の力を抜くって素晴らしい。もう次回からはAIとかが書いてくれないだろうか。
 

https://pbs.twimg.com/profile_images/773577064662183936/KHPwgIR-_400x400.jpg出典:AI 公式twitter

 

なんどもいうが、随筆だのエッセイだの雑記だのは、「何が書いてあるか」ではなく、「誰が書いたか」の方が百億万兆倍ぐらい重要である。おれだって松岡茉優や中条あやみや小松菜奈や吉岡里帆や高山一実がどんな音楽が好きかは知りたいが、こんな無名の中年が何を聴きながら車を運転していたかなど、どうでもいい話にちがいない。しかも80年代に生きた人間丸出しでとても恥ずかしいし、特にマニアックなものも何もなく、たくさん売れた音楽ばかりで申し訳ない。あんまり話の通じないクラシックのCDも何千枚もあるが、そっち方面で人と話が弾んだためしがない。
 

だが、共通して聴いたことのある音楽、観たことのある映画、食べたことのある蒙古タンメン中本の「北極の火山」について誰かと話す時間は、けっこう幸せだと思う。
 

http://nakamoto.tokyo/wp-content/uploads/2016/07/hokkyokunokazan1.jpg出典:蒙古タンメン 中本の道

エロいアルバムジャケットやらAIやら蒙古やらの写真が並んだので最後に。12月になったらひとりで車に乗って、雪が積もっている山奥までわざわざ行って聴くアルバムを。
 

『ディセンバー』 ジョージ・ウィンストン (1982年)

 

“Thanksgiving”

Reference:YouTube

 

みなさんよいクリスマスをお過ごしください。

 

【過去5回の「ひろのぶ雑記」はこちら】
袋とじ連動 田中泰延のすべて
ズンガリガリガリズンガリガーリ
クリンとイースとウッド
当たるもHACK当たらぬもHACK
慚愧の値打ちもない

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