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旦那のことが好きすぎる【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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時に常識をぶち破るような人間というのが存在する。それが先ほどからのろけている彼女、名前はサチコである。

彼女は、最近の日本では絶滅危惧種・保護すべき存在として知られている「旦那が好きすぎる」類の人だ。普通は、好きな人と何年も一緒にいれば、慣れる。その常識をぶち破る女、それがサチコだ。慣れない、一向に旦那に慣れないのだ。

サチコは名前の通り、幸多き人生を歩んできました・・・、と言いたいところだが、彼女の人生は順風満帆ではなかった。特筆すべきは、これまで付き合ってきた男のダメっぷりだろう。
たとえば、専門学校の頃は彼氏にお金をせびられていた。それも、地味な金額だ。たとえば「延長コードを買いたいからお金ちょうだい」とか「ドライヤー買い換えたいからこれ買って」とか。そういう2000円〜5000円までの物をよくおねだりされた。あまりに金額が少なかったので、「おかしい」と思うほどには至らず、それゆえに結構な金額をつぎ込んでいることに別れるまで気づかなかった。それは意志を持って貢いでいる女よりも、地味に不幸なことだった。

好きになった男の人にはことごとく「好きな人」がいて振られた。彼女でもいてくれたらまだ諦めきれるものなのに所詮“好きな人”にも勝てないのかとげんなりしたり、“好きな人”がいるなんて誠実な男の姿勢にときめいたりもした。これもまた不幸なことだ。

大好きで結婚間近だった彼は貧乏ゆすりが激しすぎて息切れするような独特の癖があったし、買ってきた花はだいたい一番綺麗に咲いている時に首からポキッと折れてしまう。新品のコートのボタンはすぐ取れるし、飼っていた犬は一向にお手を覚えない。そういう人生だった。
不幸だ、と思えるほど不幸ではなく、かといって最高だとは思えないようなサチコの人生。それが30年続いた頃だった。

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