ぼんやりとした気持ちで帰宅し、買ってきたほうれん草の白和えをそっと飲み込み、複雑な気持ちを口の中に広げる。
だいず、か・・・・・・。
あーあ、なんであたし、すぐに「わかる」って言っちゃうんだろう。
心の中で自分の嫌いなところがぐるぐると渦巻き、耐えられなくなった頃、ツイッターを開くと知らない人のツイートがバズっていた。
「女って知らないうちに殴り合ってることってあるよね。そんなつもりがあるかどうか知らないけれど、ひっそり相手を傷つけていて、それを後になってクヨクヨ悩んだりすることあるよね。繊細で、けれどそばにいたくなって。これぞヤマアラシのジレンマって感じ」
エリコはとっさに「わかる」とつぶやき、親指で画面をタップする。
グレーだったハートマークに、赤い色がつき、そこでエリコは再びハッとする。
あたしまた「わかる」って言ってる・・・。
その赤は、危険信号のように見えた。
NO MORE WAKARU。誰かお願い私を止めてーー。
*
と、最後また意味わからなくなってしまったけれどこんな事情に違いない。うんそうだ、違いない。
ところでこの会話を聞いてからもう半年以上経つというのに、忘れられないのはわたしも「とっさに自分の気持ちを言えないところがある」からだろう。
一度でいいから、前を見ていないでぶつかってきた人に「ちゃんと前見てくださいよ」とか、しつこいナンパとかに「まじ無理なんで黙ってください」とか言ってみたい。いつも反射的に「すみません」とか「ごめんなさい」とか言ってしまうから、だからきっとエリコに思いを馳せ続けてしまうのだろう。
エリコ、頑張ろうね。
ところで本当にエリコは大豆に似ていたのだろうか。見ておけばよかった。
【過去の「さえりの”きっと彼らはこんな事情”」はこちら】
・予約しなかったマリオ
・沈黙の彼女が考えていること
・”やり投げ”みたいだよ
・20代のあれはなんだったんだ
・電話にでない女