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予約しなかったマリオ【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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俺だって、別に偉そうなこと言えた口じゃないけど、俺の人生これでいいのか。

 

そんな話を、先日久しぶりに飲んだ金谷にした(金谷は商社に勤めている)。すると金谷は意外な答えを言う。

「お前、他の女と遊んでみればいいじゃん」
「え、遊ぶって?」
「浮気のひとつやふたつしてみろって言ってんだよ」
「俺、金谷みたいに器用じゃないから・・・・・・」
「いいじゃん、ご飯行くとかだけでも。他の女を目の前にして、何を感じるかがお前の答えじゃねーの? そうだ。マッチングアプリでいいやつあるんだよな。ちょっとスマホ貸して」

金谷はその場で緑のアイコンをインストールし、かわいい子に片っ端から「いいね!」を送った状態でスマホを返してきた。

「いや、柄じゃないから〜」とか「おいおい、やめろよ〜」と言いながらも、マリオの心は踊っていた。かわいい彼女とバージンロードを歩くところまで思わず想像してしまった。オーシャンゼリゼ〜いつも何か素敵なことが僕らを待つよシャンゼリゼ。
浮き足立ったマリオは止まらなかった。なんと数日後、食事の約束を取り付けたのだ。

一番かわいいと思っていた子から返事がきたときの彼の高揚こうようは尋常じゃなかった。目が大きくて二重のかわいい(以下略)子との子供ができるところまで妄想は膨らんだ。

その子は昔アルゼンチンに留学していたのだと言う。マリオは、彼女と会いたいがゆえにアルゼンチン料理に誘い出す。

「アルゼンチン料理で、美味しいところ知ってるんだよね」
「え、そんなのあるんだ! ミラネサとかアサードとかもあるの?」

(なんだそれはハリーポッターの呪文か?)などとは思いもせず、健気なマリオは料理名をググる。結局、全てが揃っているお店を見つけ出した。
「んー、じゃあ、行ってもいいよ」

 

明らかに気乗りしない返事。上から目線の女にも「やった。うれしいです」などと返事してしまう上からマリコではなく、下からマリオ。

約束を取り付けた日から今日までの間に、場所の確認にはした。外にあるメニューも確認した。

もしかして万が一のことがあるかもとシャツと下着のパンツも新調した。金谷が使っているというジョヴァンニのボディスクラブも初めて買った。やましさから、スクラブは毎日かばんの中にしまっていた。腹筋も、ほんの気持ち程度に鍛えた。

万事準備完了。

そして迎えた約束の日。待ち合わせは20時。そして今時刻は19時45分を指している。

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