母親は訝しがる。
どうしてこんなにやる気になっちゃったんだろう。悪くはないけれど、あのユウカがそんなに夢中になるなんて、逆に心配。ユウカは昔から無理をしすぎる傾向にある。自分ができること以上まで一人で背負おうとして、どこかでダウンしてしまう……。ユウカも大人だからきっと自分でコントロールもできるだろうし、そんなこといちいち言わないほうがいいと思うけれど。内心見守るしかできなくて、ヤキモキしているのだ。
その日も、買い物に出かけている間中会社のことばかりを話していた娘に、母親は思い切っていうのだ。
「なんだかあなた最近、頑張りすぎじゃない?」
「え、そう?」
「いや、正直“やり投げ”みたいよ、あなた」
精一杯だった。母にとっては、娘に対しての注意喚起はここまでしかできない。ユウカが少しでも、自分の頑張りすぎに気づいてくれたらいいのだけれど。
——母はまだ気づいていない。娘が実は最近“やり投げ”と付き合い始めたことを。娘は言えずにいる。彼の熱意を尊敬し、自分もそうなりたいと思い始めていることを。
*
彼女たちの事情はきっとこうなのだ。こうに違いない。なんてスッキリしたんだ!
人間とは適当なもので、印象に残った一言だけで人のことを読んでしまうことがある。「あのアプリ?(で知り合った人?)」とか「あのイケメン(って最初騒いでた人?)」とか「あの柴犬?(を好きって言ってた人?)」とか「あのハンドボール野郎?」とか。きっと「やり投げ」もそういう意味合いだったのだ。
なかなか気付かなかったなんてわたしもまだまだだな、と思いつつ、ここまですべて妄想なので本当のことは誰も知ることがない。
ユウカ、その男は悪くないと思うがきっと落ち込んだ時に「大丈夫! 病は気からだよ!」とか言ってくるタイプだと思うから気をつけろよ。ま、その男が存在するかどうかも、知らんけど。
【過去の「さえりの”きっと彼らはこんな事情”」はこちら】
・20代のあれはなんだったんだ
・電話にでない女
・「結婚する気ある?」