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”やり投げ”みたいだよ【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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母親は訝しがる。

どうしてこんなにやる気になっちゃったんだろう。悪くはないけれど、あのユウカがそんなに夢中になるなんて、逆に心配。ユウカは昔から無理をしすぎる傾向にある。自分ができること以上まで一人で背負おうとして、どこかでダウンしてしまう……。ユウカも大人だからきっと自分でコントロールもできるだろうし、そんなこといちいち言わないほうがいいと思うけれど。内心見守るしかできなくて、ヤキモキしているのだ。
その日も、買い物に出かけている間中会社のことばかりを話していた娘に、母親は思い切っていうのだ。
「なんだかあなた最近、頑張りすぎじゃない?」

「え、そう?」

「いや、正直“やり投げ”みたいよ、あなた」
精一杯だった。母にとっては、娘に対しての注意喚起はここまでしかできない。ユウカが少しでも、自分の頑張りすぎに気づいてくれたらいいのだけれど。

——母はまだ気づいていない。娘が実は最近“やり投げ”と付き合い始めたことを。娘は言えずにいる。彼の熱意を尊敬し、自分もそうなりたいと思い始めていることを。

彼女たちの事情はきっとこうなのだ。こうに違いない。なんてスッキリしたんだ!

人間とは適当なもので、印象に残った一言だけで人のことを読んでしまうことがある。「あのアプリ?(で知り合った人?)」とか「あのイケメン(って最初騒いでた人?)」とか「あの柴犬?(を好きって言ってた人?)」とか「あのハンドボール野郎?」とか。きっと「やり投げ」もそういう意味合いだったのだ。

なかなか気付かなかったなんてわたしもまだまだだな、と思いつつ、ここまですべて妄想なので本当のことは誰も知ることがない。

ユウカ、その男は悪くないと思うがきっと落ち込んだ時に「大丈夫! 病は気からだよ!」とか言ってくるタイプだと思うから気をつけろよ。ま、その男が存在するかどうかも、知らんけど。

 

【過去の「さえりの”きっと彼らはこんな事情”」はこちら】
20代のあれはなんだったんだ
電話にでない女
「結婚する気ある?」

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