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僕が無職なのは遺伝子のせい【連載】神様がボクを無職にした

フミコフミオ フミコフミオ


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それでも父は、日曜日も書斎にこもることが多かった気がする。仕事。仕事。仕事。なぜ、あれほど働いていたのか。当時の僕は知る由もなかったし、当時の父の年齢を超えてしまった今の僕でも、分からない部分の方が大きい。ただ、分かるような気はする。父はただただ不器用で、プライドが高い人だった。プライドの高さゆえに不器用さを不器用さで隠そうとしていたのではないか。

《不器用な隠し方=仕事をするということ》、それが父の公式だった。

その父が亡くなる2年前、突然、家族に相談もなく会社を辞めて、自宅で仕事を始めた。つまり、父と僕、親子二代で家族に相談なく会社を辞めている。遺伝子の仕業。当時、僕は高校生だったけれど、生来の猜疑さいぎ心の強さや好戦的な性格に加え思春期ど真ん中の難しさもあって、それまでとはうってかわって自宅にいつもいるようになった父と、進んで接触をしようと思わなくなっていた。

言い合いや、殴り合いの喧嘩の方がお互いの存在を視野に入れている分、マシだった。僕と父のそれは、お互いを視野に入れようともしない、冷戦。その冷戦の最中に父は死んでしまった。あの2年間にもう少し話をしておけばよかった。後悔先に立たずというフレーズの重さを知ったのがそのときだ。

ただ、僕にとっては苦かった2年間が、母にとってはその2年間、仕事人間だった父が家にいるようになった2年間は、かけがえのないものだったようだ。ふたりで旅行や買い物に出掛けるようになったのもさることながら、平日の夕べに普通の会話を交わすことが出来たからだ。その2年間は父からの最後のプレゼントだった。もし、その2年間がなかったら、今も僕は父を許すことができなかったと思う。

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