【暗闇から手を伸ばせ】
暗闇から手を伸ばせ 小沢健二
Reference:YouTube
東京、神保町。春の午後の陽射しの中、私ははじめて彼の顔を見た。お客さんの前で対談するための控室だった。控え室にはなぜか日本刀が置いてあり、小さな子供が走り回っていた。私はカメラを持っていたが、彼を撮ることはしなかった。
これが、たった一枚、そのとき撮った写真だ。私と彼は、おたがいの顔をあまり見ず、ただ、出番が来るまで同じ方向を見ていた。
対談では、何を二人で話したのか覚えていない。ただ、わたしは、ふざけた笑い話が続いたその最後、彼の発した言葉に不意に泣かされてしまった。大勢のお客さんの前でだ。いつだってぼくたちは、だれかとつながりたい、会いたいと思っているんだと思う。それは、彼がそんな意味のことを、そこに集まった人たちと私に、とても自然な告白を始めた瞬間だった。
その夜、酒を酌み交わしながら彼は書いたものについて、「あれで、いいですかね」「あれで、大丈夫ですか」と何度も私に訊き、私は何度も「あれで、いいと思います」「あれで、大丈夫だと思います」と答えた。
ネット上で、彼の小説の連載が始まった。
【中央フリーウェイ】
中央フリーウェイ 荒井由実
Reference:YouTube
それからたった数日。私はひとりで京都駅に立っていた。改札から出てくる、想像していたよりずっと背の高い男性を見た瞬間、私の口から独り言がこぼれた。「糸井重里だ」。
初対面の糸井さんとタクシーに乗った。偽物ではなさそうだった。車に乗り込んだ3分後には、私は「ぜひ、燃え殻さんと会ってください」という言葉を発していた。その2分後には、糸井さんが「古賀史健さんに会ってみてください」と言った。
二人である場所へ向かったタクシーの中の10分間は、やはり私の人生をおかしくしてしまったと思う。