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『ボクたちはみんな大人になれなかった』刊行記念【連載】田中泰延のエンタメ新党 特別編

田中泰延 田中泰延


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田中泰延 特別寄稿

 小説家の誕生。

 

2016年は、人生が滅茶苦茶になった年だった。24年間も働いた会社を、辞めた。いま、仕事は何にもない。収入もない。それは、この男のせいだと思っている。
 

燃え殻。ふざけた名前だ。
 

その男とはじめて接触したのは2014年の暮れ、ツイッターでひとこと、言葉を交わしただけだった。
 

燃え殻‏ @Pirate_Radio_ 2014年12月23日
年末に田中さんに冷やかされる日が来るとは。異種格闘技過ぎる。

 

田中泰延‏ @hironobutnk 2014年12月23日
きゃーん!謹んでフォローwww
ずっとこそっと拝読してましたwww

 
若干、私の返事が軽い気がするが、ともかくも、そうやってお互いが垂れ流す言葉を読む間柄になった。そのころの彼のアイコンはすこし怖く、まるで新宿の路地裏に佇む闇社会の住人のようだった。

辯・∴谿サ菴ソ逕ィ逕サ蜒・CcjJQ-nVAAAUYXV

それから1年以上が過ぎた。私は、この『街角のクリエイティブ』の西島知宏編集長に頼まれて、生まれて初めて長い文章を書くようになっていた。
 

燃え殻と私、2人の間には、とくになにもなく、交わす言葉もなかった。
 

【Automatic】

Automatic 宇多田ヒカル

Reference:YouTube

だが、その静かな関係は破られる。2016年2月11日深夜。突然こんなダイレクトメッセージが届いた。
 

泰延さん、今、文章を書かないか?という話を頂いて書いてはみたんですが
何とも混沌といたしまして迷走しております。
一度、文章を読んで頂く事など可能でしょうか?
燃え殻

 
可能でしょうか? というわりには、その次のメッセージには数万字の文章がそのままコピー&ペーストされていた。いくらスクロールしても終わらない。いや、あなたの140文字のツイートは毎日読んでいる。しかし、我々は会ったこともない。怖かった。
 

だが、私はそれを読むことをやめられなかった。何度も繰り返して読んだ。はっきりと、それは小説だった。しかもいままで読んだことのない小説。軽々しいことなど言えるわけもない。返事もできず時間だけが過ぎたころ、別の人物からダイレクトメッセージが届いた。
 

どこかいいときにぜひお会いしたいです。
どっちも空いていたら、ふらっと会いましょう。
糸井重里

 
偽物だろう。私が子供の頃からテレビや雑誌や、インターネットで見ていた糸井重里を名乗る人間。そう思った。しかし、それならそれで面白い。1ヶ月後に京都でその人物と会う約束をした。きっと、別の人間が現れ、「糸井重里さんは今日は来れなくなったので、とりあえずこの口座に20万円振り込んでください」という話の流れになるだろうから、その体験は笑い話になる。
 

私は、何かをしたいとか、何かになりたいと思って生きたことが一度もない。つねに誰かから連絡があり、声がかかり、呼ばれ、なんとなくここまで生きてきた。必ず誰かから何かの決断を迫られ、その都度どうするかを決めなくてはならない人生。糸井重里を名乗る偽物のメールからさらに数日後。西島編集長からメールが届いた。
 

ひろのぶさん。東京で燃え殻さんとお客さんの前で対談してくれませんか。
燃え殻さんには断られたのですが、
ひろのぶさんが相手なら出ると返事がありました。
西島知宏

 
私は焦った。あの小説はなんども読んだが、返事をしていない。急ぎ彼に返信をした。
 

燃え殻さん、返信遅くなりました。
いいとおもいます。書いてください。
田中泰延

 
あの日、私の運命も狂ってしまった。

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