さらに追い討ちをかけるようにカナエは言う。
「いやーわたしもバカだった」
「え、何わかってるならいいけど・・・・・・」
「いや、20代のときのことよ。必死になって“スペック”とか言っちゃって。あの人はダメこの人はダメって本当の気持ちをぜ〜んぶ無視して未来を決めようとしたりして。20代のあれはなんだったんだ! って、思っちゃう。本当に大事なのはそんなことじゃないのにね」
20代のあれはなんだったんだ・・・・・・? あんなに二人で結託してハイスペックを探しあったのに? 家にいるヒモのことずっと隠してきたのに? ノリコは内心腹を立てながら、こう答える。
「カナエらしくない。カナエって、強いじゃん」
「え、強くないよ」
「ううん。強い。だって、豆苗をちゃんと捨てられる女じゃん。わたしは豆苗を捨てられないけど、カナエは違う」
「え〜? なにそれ?」
「不要だ! って思ったらちゃんと捨てられるじゃん。やっぱり〜とか言わないじゃん。それって自分にとって何が大事かわかってるってことじゃん。そうだって思ってたよ、違うの?」
するとカナエは、妙に落ち着いたそぶりでこう答える。
「んー・・・・・・。それで言うならたしかにわたしは豆苗を捨てられる。けど、わたしにとっては今や、“安定した生活”とやらが不要って気づいたのよ。わたしはそれを、捨てることにしたの」
ノリコはガツーンと殴られたような気分になった。
カナエと話してたから、わたしは今でもそういう道を探してるよ。6年付き合った男への気持ちを全部無視して未来のことを話してたんだよ。なのにあんたなによバンドマンって・・・・・・。なによそれ・・・・・・。悪びれることなく・・・・・・、今まで言ったことを覆すなんて・・・・・・、なによ・・・・・・。わかったわよもういいわよお手上げよしあわせになりなさいよ・・・・・・。そうじゃないとあたし・・・・・・許さないから・・・・・・。