そして男は女の家に住みつくのだが、そこで女が知るのは、この男が何もしないということである。昼すぎまで寝ているし、テレビ、マンガ、ゲームにネット、あとはポテチを食うなどが行動の大半であり、まったく生産的でなく、はたしてソーシャルフェノメノンとしての活動はいつやっているのかと女は疑問に思うんだが、しかし男は言うわけである。
「こうして日々、何もせずに怠惰に暮らすことが、ソーシャルフェノメノンとしての活動なんであって、たとえば職業訓練なんかをしてしまうと、ソーシャルフェノメノンとしては失格なんだ。ソーシャルフェノメノンにとって何よりも重要なのは、就労意欲のないことであって、もしも就労意欲がある場合、ぼくはソーシャルフェノメノンではなく、たんなる無職になってしまう。ぼくはきみを無職と付き合っている女にしたくはないし、やはり、きみのためにも、ひとりの立派なソーシャルフェノメノンとして存在していたい」
横になって、ポテチを一枚口に運びながら、男はそんなことを言うわけだが、このあたりでさすがの女も、こいつは単なる職なしなのだと気づく。辞書を取り出して英単語の意味をしらべ、いろいろと察する。ソーシャルフェノメノンは横文字職業ではなく、要するに社会現象というか、社会問題である。わたしはいろいろと勘違いした結果、社会問題と付き合ってしまっていた。おろかだった。
こうして女は、ソーシャルフェノメノン改め単なるニートを家から追い出すことになり、男はポテチの袋を持ったまま、家の前でぼうぜんとする。
しかし、男はすぐに気を取り直して、ポテチの袋に残っていた大きめの一枚を取り出すと、パリッと軽快な音をさせる。その音は、どこにも行くところのない男にしか出せない爽やかな音で、透き通るような青空に、よく似合っている。
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