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ムーンライト【連載】田中泰延のエンタメ新党

田中泰延 田中泰延


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第三部 ブラック

映画の中の時間はここで大きくジャンプします。そして第一部「リトル」第二部「シャロン」と主人公の呼び名がつけられたタイトルから離れ、黒人そのものを指す「ブラック」になります。

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出典:IMDb

 
で、この映画3度目の「え!? え!? え!?」になります。シャロンはどこへ行ったんや? この筋骨隆々のドラッグの売人は誰や?
 

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出典:IMDb

ですが、観客は、彼の目の奥の光と、その半開きの口で、(これはシャロンだ・・・)とまもなく気がつく仕掛けになっています。マッチョな肉体に鍛え上げ、ワルとして生きている彼の中に、あのいじめられっ子のシャロンをみつけることができるのです。「その間何があったか?」は観客が考えて埋めるのです。もちろん、あの父親代わりのフアンの生前の姿をなぞっているのであろうと想像することは容易です。
 
いっけん、主人公は変わり果てたようにみえますが、この第三部でついに物語は「誰かに決められない、自分で決めた自分の生き方」という普遍的なテーマにたどり着くんです。
 

 https://pbs.twimg.com/media/C7CXd1AU8AAgHI_.jpg
出典:「ムーンライト」オフィシャルTwitter

 
まずシャロンは母親を心に受け入れ、赦し、肯定します。
 

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出典:IMDb

 
人間、だいたいにおいて人生の前半は、許せないこと、納得できないことが起こります。ですが、ものすごく時間を必要とするんですけど、人生の後半は、自分の人生の前半と和解することが大切なんですね。命の残りの時間を知って初めて、ひとつづつ、和解していく。
 

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出典:IMDb

 
あのケヴィンも大人になっています。そして2人は、それぞれの人生と和解するために、もう一度惹かれ合う運命なんですね。
 

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出典:IMDb

 
この再会のシーンのぎこちなさ、映画として破綻ギリギリなぐらいの会話の「間」の取りかた。1度目観たときはわからなかったけど、2度目にははっきり、これはラブストーリーのワンシーンだとわかりました。それと、ケヴィンが売人になっちゃったシャロンをちょっと非難するとこは希望に繋がりますね。
 
ジュークボックスからバーバラ・ルイスの1963年のヒット曲、『Hello Stranger』が流れます。大事なところで歌に心情を託すなんて、まるで「ラ・ラ・ランド」ですね。

Reference:YouTube

 
Hello, stranger
It seems so good to see you back again
How long has it been?
It seems like a mighty long time
I’m so glad
You stopped by to say “hello” to me
Remember that’s the way it used to be
It seems like a mighty long time
I’m so glad you’re here again
 
ハロー、ストレンジャー
また会えて嬉しいよ
どれぐらい時が過ぎただろう
長い時間が経ったような気がする
ハローと言うために寄ってくれた君
昔のままのやり方で
長い時間が経ったような気がする
君がまたここにいるのが嬉しくて
 

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出典:IMDb

 

物語はとうとう最後に、また、あの「海」へ誘われ、希望の向こうへ去っていきます。

 

いかがですかみなさん。ほんと、観ておいてほしいんですけど、これが今年のアカデミー作品賞なんですよ。
 
「ラ・ラ・ランド」のように、典型的な、類型的な、パッキーンと書き割りみたいな恋愛に歌って踊って号泣させられる映画じゃないんですよ。
 
少なくとも僕にとっては、2回観て、じんわり意味がわかり、じんわり涙がにじむ、そんな映画でした。
 
時間がかかっても、すべてを肯定する。肯定するあなたと、肯定した私は、青い月の光の中で、波の音を聴いている。
 
その時間こそが、「誰かに決められない、自分で決めた自分の生き方」を生きる静かな時間なんじゃないでしょうか。私がどんな人種でも、あなたがどこの誰でも、性別がなにであっても。山のようにあった許せないこと、許されなかったことと、ひとつづつ和解して、海に溶かしていく。
 
ああ、思い出した。宮本輝の小説、川三部作「泥の河」「螢川」「道頓堀川」にちょっと感触が似てますね。
 

昨年の作品賞を受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」もそうだったんですけど、アメリカの抱えている問題点を描いている映画に、ハリウッドのアカデミー会員は投票しがちなんですけど、今年は「ラ・ラ・ランド」ではなくこれを選んでおきたい、というアメリカ人の問題意識の表れでもあります。
 

人種  貧困 ネグレクト ドラッグ いじめ そして同性愛差別 
 

それは、アメリカが抱えている闇ですが、この美しい映画は、その抑制されたルックと、説明過剰にならない脚本で、とても繊細にそれらの問題を盛り込んでいます。それが企画されたものなら非常にあざといんですけど、最初に書いたように監督と脚本家のまったく個人的な体験から生まれていることが伝わるから、最後には「問題点を盛り込んでます的」な雰囲気から離陸して、普遍的な愛と生き方の問題までたどりつけている気がします。
 

ちなみに、この映画、製作総指揮をつとめるのはブラッド・ピットです。彼は制作に関わった映画「それでも夜は明ける」に続いて、またアカデミー作品賞です。あの映画も黒人差別がテーマでした。ブラピは、意外とアメリカの問題点を考え続けてるんですね。プロデューサーのほうが向いてるんじゃないでしょうか。
 

しかし。男性同士の純愛を描く、こういう映画がアカデミー賞に輝く世の中になるなんて、日曜洋画劇場で解説をされていた、淀川長治さんに生きていてほしかったなぁ。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/04/013.png
出典:YouTube

 

「このね、アーノルド、アーノルド、アーノルド・シュワルツェネッガーがね、見事な体格ですね、見事な身体ですね。もう、真っ裸の、全裸の、シュワちゃん、シュワちゃん、シュワちゃんのね、そのお尻の、おいどの、綺麗なこと。身体がね、いい身体、いい身体してるんですね。もう、シュワちゃん、シュワちゃん、いっしょにお風呂に入りたい、そんな身体、いい身体、いい身体してるんですね」
 
ちなみに、アーノルド・シュワルツネッガーを「シュワちゃん」と勝手に名付けたのは淀川長治さんです。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/04/bb2c6c81d5c2e8d7cd9efff93877a56d.png
出典:YouTube

 
いろんなことを肯定できる、静かな時間を持ちたいものです。
ちょっと原稿が遅いとかも、肯定できる心を持ちたいですね。
ではまた来月、エンタメ新党でお会いしましょう。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。

映画「ムーンライト」公式サイト

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