ある日のことだ。私、田中泰延は一通のメールを受け取った。よく考えると、人生には「ある日のこと」しかない。そんなことはない、「ある夜のこと」もあるじゃないかという反論をクソリプという。クソリプすると人間の品格が下がるのでやめたほうがいい。
クソリプのせいで話が前に進まない。要するに、ある日、私にこの『街角のクリエイティブ』の西島編集長から一通のメールが届いたのだ。よく考えると、誰かから何百通まとめてメールが来ようと、読むのは一通ずつなのだから、どんな要件も結局は「一通のメール」に書いてある。よく考えるとか言いつつ、こういうのもやはりクソリプなので、もうよく考えないほうがいい。
西島編集長のメールには、わりと軽いテンションで、まずこの動画を見てほしいとあった。
Reference:YouTube
絶句した。とりあえず家族と一緒に見ないで本当に良かった。CMのスタイルとしては、たとえば保険会社の、加入者の満足の声をカウンセラーが聞きに行く、という様式と同じなのだが、何かが、違う。違いすぎる、何かが。(倒置法)
いったいぜんたい、このCMを作ったのは誰なのだ。小声で名乗りをあげる人がいた。西島編集長その人である。思い出した。このサイトの編集長は仮の姿。本業はCMのプランナーであり、またの名をクリエイティブ・ディレクターという。またの名というのも気になる。名のある股というのは、どんな立派な股なのだ。気になるといいつつこれこそクソリプなので、もう気にしないでほしい。
そして彼は言った。クライアントがこの動画をプロモーションしたがっているので、記事を作成しようと。
頭を抱えた。この、家族と見るのが難しい広告をどう語れというのか。だいたい、広告主はよくこの企画をOKしたものだ。
編集長は、記事のために「聖地巡礼」をしようと言い出した。
聖地巡礼。最近よく耳にしたのは、これだ。
映画「君の名は。」のロケ地を訪れる旅。四ツ谷の須賀神社、飛騨古川町、広島市立基町高等学校・・・てっきり日本一周の取材旅行に出かけるのかと思っていたら、西島編集長は「1箇所だけだ」という。
このCMのロケ地を巡礼しようというのだ。もう一度、動画を見てみよう。
Reference:YouTube
東京都内のなんてことはない川べりだ。いったいどこが「聖地」なのだ。
だが、この動画を繰り返し見るうちに、これ・・・意外と深いテーマなんじゃないかという思いに至った。
登場人物の思いをたどりながら、まったく不要と思われる同ポジ(同一ポジション)での私と西島編集長の対話が繰り広げられる中、徐々にこの動画の見え方が変わってきた。
物語は、ある女性にフラれてどん底の精神状態を味わった男性の告白から始まる。
だが、この動画の広告主が提供するサービスで、次の交際相手をみつけて新しい人生を歩むまでが語られる。
男性と同ポジで、彼の心をなぞるうちに、私は、恋愛に関するいくつかの名言・格言を思い出していた。
「失恋があるからこそ、人生って素晴らしくなるのよ。ただし五年後の話だけど。」
これは、アメリカの女性ジャーナリスト、フィリス・バッテルの言葉だ。
そうとも。傷つくことがあっても、ひとは必ず立ち直る。
「愛は、お互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである。」
フランスの作家、サン=テグジュペリの言葉だ。
そう、同じ嗜好を持った者同士が同じ目標を目指すのが、愛なのかもしれない。
イギリスの詩人、シェリーは言った。
「恋愛の真の本質は自由である。」
そうだ。相手と自分の自由を認めなければ、愛は成り立たない。
この男性の場合、若干、自由すぎるが、自由の本質は、自由すぎることだ。何も言うまい。
イタリアの作家、ディエゴ・ファブリはこう言っている。
「愛とは相手に変わることを要求せず、相手をありのままに受け入れることだ。」
私もその自由を味わってみた。まったく喋れない自由だったが、確かに自由だった。
聖地巡礼してわかったこと。それは、幸せとは多様だということだ。
恋愛のダイバーシティを容認する姿勢こそ、出会いと幸せにつながる。
ダイバーシティ、つまり「多様性」。たくさんのありさま、ということだ。ありのままの自分と、他者を受け入れ、共存することにこの世界の意義はある。
そしてその開かれた姿勢にこそ、出会いはやってくる。
私もかつてこう言った。
人と出会って別れるということは、つまり交差点で出くわしたということであり、お互いに違う方角へ急いでいたのである。そこで立ち話などして、話が終わればまた行きたい方へ歩いていくのである。交差点ごとにたくさん出会ってたくさん別れたらよろしい。一緒に歩きますか、という人もそのうちいるよ。
— 田中泰延 (@hironobutnk) 2014年12月18日
ちなみに、動画には今日紹介した「男性編」のほかに、「女性編」もある。
動画を見てもらいたい。これも、失恋した女性が新しい恋を見つけるまでを描いている。
Reference:YouTube
どこにでもいる、ありふれた普通の女の、
普通の・・・
普通の・・・
普通の・・・
「この世界にはあらゆる形の愛があるが、同じ愛は二つとない。」
(スコット・フィッツジェラルド)
そうだとも。どんな趣味嗜好や性癖を持つ持つ者も、集団の中のマイノリティも、人間として同じ権利と自由を持っている。
そして人間には、好きな人を好きなように好きになれる権利がある。
が、人間には、好きになれない人を好きにならなくていい権利もある。
もう擁護できんわ。どんな趣味嗜好も性癖もマイノリティの主張も認めるが、俺はこの女とは友達になりたくない。
西島さん、あとは勝手にやってくれないか。
そして愛に破れ、そしてまた新しい愛を探して旅立つ人々よ。
どうか、あなただけの愛を探してほしい。
世界は多様性に満ちていて、あなた自身もその多様性の一部なのだから。
運命の出会いアプリ『ワクワク』
[広告主]ワクワクコミュニケーションズ
[編集]街角のクリエイティブ編集部
[ライター]田中泰延
[撮影]Yoshiko Matsunaga
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