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都会的なセンスのオシャレな怪談を書いてみた

上田啓太 上田啓太


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「ねえ、あたしが成仏すると困る?」

「すこしね」

「本当は?」

「ものすごく困るよ」私は認めた。
 

その夜、私ははじめて彼女の井戸に案内された。井戸の中は上品な家具で統一されていた。白装束はていねいに折り畳まれてたんすの中に入っていた。井戸の暮らしには井戸の暮らしの洗練があるのだろう。

彼女は誰かをこの部屋にあげたのははじめてだと言った。私だって幽霊の部屋に入るのははじめてだった。そして私は彼女と一夜を過ごした。朝の光が井戸に射し込んできた頃、私は彼女にたずねた。
 

「いまでも、主君のことがうらめしい?」

「すこしね」と彼女は言った。
 

しかし彼女はその日を境に皿を数えることをやめた。キッチンには数えることをやめた皿が積まれていた。われわれは二人で料理をするときにその皿を使った。皿は二人で使うには多すぎた。そのことに気づくと彼女は笑った。彼女は長いこと皿が足りないと言っていたのだから。

われわれは井戸を出ると街を眺めた。
 

「足りないものは見つかった?」

「皿?」

「ううん、愛のほう」
 

ここに、と言って、彼女は私の手を握った。私はその手を強く握り返した。しばらくの間、我々は指先だけで思いを伝え合っていた。私は彼女にキスをした。夜の街は静かだった。くちびるのふれる音が聞こえるほどに。
 

「さて」と私は言った。

「われわれは愛を見つけた」
 

彼女はうなずいた。
 

「あとはぬくもりだけだ」

「あら、知らなかったの?」と彼女は言った。

「愛の別名はぬくもりなのよ」

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