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都会的なセンスのオシャレな怪談を書いてみた

上田啓太 上田啓太


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「数えなくていいのかい?」

「いいのよ、どうせ一枚足りないんだもの」彼女は笑った。

「皿なんて何枚でもいいのよ。たしかにあの時、私の皿は一枚足りなかった。でもね、本当に足りないものは皿じゃない」

「たとえば愛」と私は言った。

「あるいはぬくもり」と彼女は言った。

「名前を聞いていいかい?」

「菊。菊の花の菊よ。みんなはお菊さんって呼ぶわ」

「古風な名前だ」

「ねえ、あたしは百年以上前に死んだのよ? 古風で当然じゃない」
 

なんだか書きながらゾワゾワしてきたが(恐怖とはちがった意味で)、このようなやりとりによって我々は知り合う。そして私は日々、夜の井戸に通い、彼女と言葉を交わすようになるわけである。

私と知り合ったあとも彼女は皿の枚数を数えている。そんなことはやめたほうがいいと私は告げる。皿を数えることは明らかに彼女の大切な何かを損なっているように思えたからだ。
 

「あるいはそうかもしれない。でも私は他に何をすればいいのか分からないのよ」

「二人で夜空を眺めながら話をしよう。そして星の数でも数えればいい」

「皿ではなく?」

「皿ではなく」
 

われわれはしばし夜空を眺めた。
 

「星ならば無数にある。足りなくなることもない」

「数え終わる前に成仏しちゃいそう」

「素敵なジョークだ」
 

彼女は真剣な顔になった。

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