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ナルシストを極めれば恋人など不要なのでは?

上田啓太 上田啓太


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秘密

しばらくのあいだ、俺が俺と付き合っていることは周囲には内緒である。秘密の恋愛を楽しむわけである。そしてある日、信頼できる同僚にだけ打ち明ければよい。

「じつは俺、同棲中なんだよね、俺と・・・」

もちろん、こんなものは単なる一人暮らしである。しかしそんなふうに自分でツッコミを入れてしまうとナルシストを極めることはできない。ナルシストとはツッコミ不在の精神なのである。俺は俺と同棲している。みんなには内緒だ。しかし同期のお前にだけは話しておきたかった。真顔で打ち明ければ、同僚は「そ、そっか・・・」としか言えなくなるのである。

「結婚も考えてるんだ」

真剣な顔で付け足しておけばよい。

同棲

ということで、恥ずかしながら俺は俺と同棲中なのである。洗面所のコップには歯ブラシが二本、俺の歯ブラシと俺の歯ブラシ、タンスのなかには色違いのパジャマ、俺のパジャマと俺のパジャマ、俺は俺のために鼻唄まじりの弁当づくり、自室の机には俺の写真、スマホの待受も俺の写真、仕事に疲れた時や上司に怒られた時はこれを見る。

「辛い仕事だけど、俺のことを思うと頑張れるなあ・・・」

そんなある日の昼休み、同僚たちが盛り上がっている。一人の男が周囲の男に弁当箱の中身を見せている。

「実はこれ、彼女が作ってくれたんですよ。ノロケすいません!」

すかさず負けじと言えばよい。

「実はこの弁当、俺が俺のために作ってくれたんですよ! ノロケすいません!」

こうして、周囲の人間は人生ではじめて1ミリもうらやましくないノロケを体験するんだが、むろんナルシストは気にしない。自分の手作り弁当を自分でほおばりながら、「俺の手料理はおいしいなあ・・・」と御満悦なのである。

「もしかして隠し味は“愛”かな?」

「オイオ~イ!」

周囲には誰もいないのである。

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