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無職と正義【連載】神様がボクを無職にした

フミコフミオ フミコフミオ


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ゴミ捨ては違う。ゴミを捨てる行為に絶頂を感ぜられるような奇特な性癖をお持ちの方は別として、ゴミ捨ては本質的にネガティブな行為である。ネガティブは誰にも見られたくない。まして僕は無職。無職のゴミ出し。ゴミ・ミーツ・ゴミ。社会の最下層。出来ることなら誰とも接触することなく速やかにゴミ捨てを行いたいし、その姿を見ないようにするのが、他人とつながっていたがりなSNS時代における武士の情けというやつではないだろうか。

日々、街並みに溶け込むようにスーツを着用して迅速かつ丁寧なゴミ捨てを心がけている。音楽が細分化されたように、ゴミ捨ても可燃、不燃、ペット、缶ビン等々細かく分別しなければならない。ロックコンサートに民謡歌手が出演したら暴動が起こるように、可燃ゴミの日に不燃ゴミを出したら、清掃局職員の作業工程が複雑怪奇化し、最悪、当該清掃局職員は暴徒化し、都市機能は喪われる。ゴミ山を前に右往左往する無力な大人。泣き叫ぶ子供たち。閉鎖される女子大学。ゴミの分別は無職が思う以上に重大な意味を持つのである。

街を守る。そんな使命感をもって僕はゴミ捨てを行っている。だって他にやることがない無職だもの。使命感をもってゴミ捨てに取り掛かっている僕に挑戦するかのごとく、分別がなされていないゴミを出す不届き者があらわれる。その日、缶とペットボトルが一緒に出されていたのである。これは街を破壊するテロである。テロリストは許せないが、まずは、この目の前の缶ペット混在ゴミを分別しなければ都市機能は失われてしまう。

わずかに残った人間らしい気持が僕を衝き動かす。僕は時限爆弾を解体する爆弾処理班のような使命感を胸に、ゴミを解体・分別をおこなったのである。袋を縛るたびに「ミッション・コンプリート」と呟く僕の肉声を聞いた人類はいない。

しばらく物陰に隠れてテロリストを待ち構えたが誰も現れなかった。翌日、その翌日もテロリストは分別をせずにゴミ捨てをおこなっていた。僕の中の正義が試されていた。沈着冷静にゴミ解体を行った。孤独な戦いだった。

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