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バカだらけの経済小説「プレゼン準備」

西島知宏 西島知宏


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ミツコは、電池切れで止まった時計に目をやる。

「21時か、時間ないわね」

実際は18時だったが、時計の針は21時を指していた。

「まだか?」

営業部長の山田は、いつものようにフレミングの法則を右手で作りながら、新入社員の佐藤に問いかけた。

「わからない」

新入社員の佐藤は、汗だくだ。無理もない。エアコンの温度は32度に設定されている。

「“できるPowerPoint2017”、読んだんじゃないのか?」

山田がさらに、問う。

「読みました」

「じゃあ、何がわからない?」

少しの沈黙を挟んで、佐藤が答える。

「電源の入れ方です」

「・・・そこか」

山田は天井を見上げ、頭を抱えた。山田自身もパソコンの電源の入れ方がわからなかったからだ。
 
「ミツコ、お前。電源入れたことあるて言ってたよな?」

「うーんと、大学の頃からやってないですけど・・・うん、やってみます」
 
ミツコはパソコンのいろんな所を触りはじめた。

最初に手をつけたのはあかりのマークがついたボタンだ。「あかりがつく=電源が入る」、大学を首席で卒業したミツコの頭脳はそう判断したのだ。

パソコンの画面は、少しだけ明るくなっただけだった。
 
「クソ野郎」

お嬢様育ちで清楚なミツコが呟く。
 
ポーン♫

どこを触ったかわからないが、ミツコが携帯しているハンマーでパソコンをたたき割ろうとした時、電源がついた。

「やったぜ、へへへ」

盗賊のようにほくそ笑んだミツコは、山田に向かって中指を思いっきり突き出した。

山田もそれに応えるように、親指をミツコに突き出す。
 
しばらくして映し出されたのは「Windows95」の文字だった。

「よーし、巻き返していこう」

ミツコが佐藤にウインクする。佐藤は気合を入れるためダウンジャケットを羽織り、マフラーを首に巻いた。エアコンの設定温度は32度だった。

 
「山田部長! この会社に地下4階はありませんでした!」

勢いよく飛び込んできたのは、クライアントのオリエン資料をB4でコピーするよう指示されていた2年目の山口だった。

「地下4階?」

山田がけげんな表情で山口を見る。

「はい、B4でのコピーはダメでした」

「オッケー。ありがとう。ミツコ、B4でコピー行ってきてもらってもいいか?」

「もう、山口ったら、、、わかりました。すぐ行ってきます」

ミツコは、紙がないからこれで拭いたのか、と思われるようなウンチのついたオリエン資料を山口から取り上げ、勢いよく部屋を出て行った。
 
時計の針は21時を指している。

「佐藤、そこ。PowerPointと書かれたマークがあるだろ。そこをマウスでクリックしろ」

「部長、こんな時に冗談は止めて下さい。ここはディズニーランドじゃないんですよ」

「ミッキーの方じゃない、そのじゃがいもみたいな機械をマウスというんだ」

「おいしそう・・・」

佐藤は生唾を飲み込んだ。無理もない。昼に半ライスの大盛りを食べたきり、何も腹に入れていないのだ。

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