アキラとツトム、それぞれの口説きかた
優等生だけあって、ツトムくんの口説きかたはシャレている。たとえば席替えという状況を考えてみよう。教師が「今日は席替えをする」と発表するや否や、隣の席のツトムくんは言うのである。
「どれだけ席替えしても、きみと巡り合うから・・・」
こういうことを平気で言う男子である。私のことを「きみ」と呼ぶ。とても小学生とは思えない口説きかたである。冬でも半ズボンのくせに、キザ。正直なところ、これはときめきよりも、うっとうしさが先行しそうである。
一方のアキラくんは情熱的なタイプである。勉強は不得意だ。そもそも授業をちゃんと聞いていない。宿題もろくにやってこない。しかし持ち前の明るさでなんとなく許されている。そんなアキラくんが言うのは次のセリフである。
「ランドセルだけでも重てぇのに、恋心まで背負っちまった・・・」
これは、けっこうキュンとする。よく考えると意味は全然分からないんだが、熱いパッションを感じる。どちらかというと、私はキザな口説きかたよりも情熱的な口説きかたに弱いのかもしれない。
「ちくしょう! おまえへの気持ちだけは置き勉できねえ!」
アキラくん、好きである。なんというか、絶妙にバカっぽいところが素敵である。まさに半ズボンを履いている人間の口説きかたである。とにかくランドセルの重さばかり意識している。女を口説くときもランドセル中心に発想している。
そんなアキラくんは、算数の時間になると頭をかかえる。
「くそっ・・・九九の答えが全部おまえになっちまう・・・」
これも、よくよく考えると意味は分からない。どれだけ人を好きになろうが、さすがに九九くらい普通に言えるのでは? 九九の答えが相手の名前になることあるか? そう考えると終わりである。ここはやはり、アキラくんの勢いにやられてしまいたい。