自己アピール
「ええと、なにか、自己アピールでもあれば・・・」
面接官は言う。一刻もはやく終了したがっている。
ここで私は、お母さんのおなかの中にいた頃の話をする。
「自己アピールは好きではないので手短に終わらせます。母によると、私は胎児の頃から他の赤ん坊とは違っていたそうです。大人になってから聞いた話です。妊娠中の母の大きなおなかを、父が愛おしそうに見つめていました。その時、母がなにかを感じて、父に言ったのです。
『あっ、蹴った・・・』
『おなか・・・?』
『ううん、内定・・・』
このとき蹴ったのが、トヨタの内定でした。
『あっ、また蹴った・・・』
『トヨタ・・・?』
『ううん、今度はJAL・・・』
その後も私は、母の胎内で100社以上の内定を蹴ったそうです。そんな私が、はじめて内定を蹴らないことになるかもしれない。本日の面接中、そんなことを感じました。以上です」
もはや面接官は、頭痛薬を飲むことしか考えていない。それでも一応、定型文で締めてくる。
「では、最後になにかあれば・・・」
「みなさん、財宝見つけたトレジャーハンターみたいな顔してますよ」
ウインクして終了。あとはマントをひるがえし、堂々と立ち去ればよい。
以上のことを実践すれば、確実に落ちる。そう、落ちるのである。書いているうちに不採用を確信した。みなさんは絶対、真似しないように。
【このライターの過去5回の記事はこちら】
・ナルシストを極めれば恋人など不要なのでは?
・もしもラーメン屋のガンコ親父が単に強がってるだけだったら
・もしも私が小学生女子で、二人の男子に口説かれたらどうしよう?
・スタバで長居する客には、茶漬けをすすめればいいのでは?
・もしも私が筋金入りの「ユニクロ原理主義者」だったら?