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アートディレクターと広告賞【連載】広告代理店の現役アートディレクターが語る

中村征士 中村征士


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世界最大級の広告賞、略してカンヌ。昔はカンヌ国際広告際と言っていました。2011年からカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルに変更されたのですが、名前が変わる5年くらいまえから「ちょっと様子が変だなあ」と感じていました。WEB・ソーシャルメディアが、広告をありかたを変えて賞の意味も変えてしまったからです。今日はその辺りのことを少し書こうと思います。

昔の広告祭は単純な殴り合いみたいなものでした

20年前の新入社員のときにカンヌに行きました。30歳以下の入場料は10万円くらい。エアとかも含めて50万くらいでした。期間中は映画館にこもって一日中出品された作品を見て、展示されたグラフィックの作品を見て、英語は分らなかったけれど講演を聞いて、少しモナコに行って、とそんな感じでした。そこで見た世界中から集まった作品は日本ではカタチにならないようなカッコいいもので、そんな作品たちの殴り合いのリングのようでした。「誰が一番カッコいいか」「オモロいか」で勝負していました。バズとか、つぶやきとか、社会貢献とかはあまりなかったのです。公共広告の部門はあったけれど。

広告賞の意味が薄れてきている気がします

もはや、ものを売ったりサービスを提供するための広報活動に評価を与えたりすることに意味がないのではないでしょうか。インターネットが無い、もしくは通信速度が遅い、そんな時代には、他の国の広告活動なんて知ることができなかったため、国際的な広告賞が機能していた。でも、今は違います。動画やアプリで直接情報が手に入ります、まさに手の平のスマホに。評価するのが審査員か、それとも世界中で暮らしている人たちか・・・。

国内だろうと海外だろうと、楽しくて人に見せたくなるようなコンテンツは勝手に広がって、まとめられて、みんなが楽しむ時代になっています。キャンペーンはローンチした瞬間から世界中の人たちのものです。世界中に審査員がいるのです。ダメなキャンペーンなら何の話題にもならずに消えていくだけ。実際、ワールドワイドに商品やサービスを展開している企業のプロモーションが、国内だけでなくSNS上で世界中に広がってそのままカンヌを獲ったりしています。

みんなが一同に会して、審査員全員が見たことのあるキャンペーンをもう一度見て、どれが一番優れている? と決める理由があまりないように思えます。

話題になったもん勝ち、がいいのか?

テクノロジーやソーシャルを利用してどれだけ話題になったのか、社会問題にどれだけインパクトを与えたのか、みたいなことが評価の軸になってしまって少し困ったことが起こっています。広告キャンペーンだけでなく、商品やサービス自体が審査の対象なるのです。世の中の問題を解決するためにやったこと、それは広告なのか? 今までになかったプロダクトをつくった、それは広告がなくても売れるんじゃないのか? 今のカンヌはコミュニケーションという枠の中に収まりきらない「話題になるコンテンツの見本市」になっている気がします。賞狙いのために社会課題を選んでいるのではないか? みたいなところも何か気になるところです。

社会貢献という切り口も、どうなんでしょう?

世の中のためになるようなことをするのは、企業の活動として当たり前。それをイメージアップに使うコミュニケーションをし、アワードに参加する。それ自体に疑問の声が出ているのではないかと思います。下手をすると、企業のブランドが損なわれてしまいかねません。情報があふれているこの世の中では、みんな嘘や下心に敏感になっていますからね。

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