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スタバで長居する客には、茶漬けをすすめればいいのでは?

上田啓太 上田啓太


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イヤミVS無粋の最終決戦

ここに一人の男がいる。毎日スタバに来ては、5時間も居座る男である。

この男は空気を読むことをしない。言外の意味を察することもない。存在感ひとつで場の空気をねじふせる。「京都のスティーブ・ジョブズ」の異名をもつ男である。空気は読むものではなく、ねじふせるものだ。それが男の信念である。

当然、二度もスタバ茶漬けを出されながら、両方とも豪快に飲み干した。二度目の茶漬けを出されたときなど、「おかわり!」とまで言ってのけた。そんな男がようやく席を立って帰り支度をはじめる。もちろん空気を読んだわけではない。仕事が終わっただけである。

男の勝利に終わるのだろうか? まだ分からない。店員サイドも負けてはいない。バックヤードでさんざんボロカスに言ったあと、男に最後のイヤミを仕掛ける。男が立ち上がったところを見はからい、ゆっくり近づいていくのである。

「えらい精が出ますな」

「ええ! 仕事が忙しくてね! 大変ですよ!」

すでに戦いは始まっている。イヤミなど無視すれば存在しないのと同じだ。男はそれを確信している。世界を変革するには、京都人のイヤミ程度にひるんではならない。だが店員のイヤミは続く。男の注文した唯一の品であるアイスコーヒーのカップをみると、にこやかに言うのである。

「氷がみごとに溶けてますなあ」

「南極の氷も溶けてるらしいですねえ!」

イヤミと無粋の一騎打ちである。まさに龍虎相うつという感じである。南極の氷などいまは何の関係もない。しかし男は堂々と言ってのける。もちろん店員も負けてはいない。次はソファ席にふれる。男が長時間座っていたせいで温かくなっている。尻の温度である。店員はそれをなでてから言う。


「ありがたいですなあ、ぬくめてもろて」

「次のお客さんに感謝されるかもしれませんねえ! ハハハ!」

もはやバチバチである。

あらゆるイヤミに大声でズレた答えを返す。無粋もまた能力なのである。俺が相手にするのは京都ではない、「世界」なのだ。男はそう考えている。そして胸を張って店を出る。「明日も来ますよ!」と店員に手まで振る。とても普通の神経の男には真似できない。

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