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デザイナー用語だらけの『こぶとりじいさん』

加藤広大 加藤広大


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「できました。結構派手ですかね? でも、これくらいのほうがいいと思うんですけどね、わし的には」

決済権を持った鬼はデザインを一瞥すると、腕を頭の後ろで組みながら後ろに90度反り返って天を仰ぎながら言った。

「うーん、他の案ないの?」

渾身のデザインが即NGになってしまったおじいさんは、結構いい感じにできたのに、なぜ他の案を求められたのかまったく理解できず、頭の中がC0,M0,Y0,K0になってしまい

「え、ありませんけど・・・他のも出します?」

と答えるしかなかった。リーダー鬼は怪訝な顔をして言った。

「すぐ出せる?」
「今週末には・・・」
「もういいや、時間ないし、他の人に頼むよ。おい、こぶ、返しちゃってよ」

傍らに居た従業員鬼が箱から何やら丸いものを取り出して、掴み、おじいさんの頬にぐりっと押し付けた。それは、かつて別のおじいさんに付いていたこぶだった。

「帰っていいよ」

リーダー鬼はそう言うと、おじいさんを完全無視して、部下鬼たちと誰がエクセルでチラシを作成、担当するかの議論をはじめた。

ペーストされたこぶは、リフレクトをかけたように左右対称に引っ付いていた。おじいさんは泣きながら家に帰った。帰宅後、ノートパソコンを忘れていたことに気付き、また泣いた。

一方、こぶの取れたおじいさんは、生涯現役デザイナーとして、事務所を都会に構え、一軒家も建て、『こぶとりじいさん〜如何に私はこぶを失くし、自信を取り戻すに至ったか〜』なる著書も出版し大ベストセラーとなり、若く美しい嫁さんもめとり、子どもには恵まれずとも犬2匹、猫4匹に囲まれ、幸せに暮らし大往生。死後ミュージアムが建てられ、鬼と出会った際に使用していたMacBook Proは、彼がPhotoshopで描いた車座になった鬼たちのポスターの下に安置されている。

以上、できないことをできると思ったり、できると言ってしまうと、実際にできなかった場合はろくなことにならないし、人生はcommand+Zできない。というお話である。

街角のクリエイティブ ロゴ


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