ケース3：寝たふりを決め込む大人inバス
私自身、電車やバスで何度も倒れたことがある。その時にそっと手を貸してくれた人の優しさは忘れられない。この日、朝のラッシュ時にバスに乗り込んだ。そこには、大きな黒い斜めがけのパソコンケースを肩にかけたサラリーマンがいた。肩にかけたパソコンケース同様に、彼自身もつり革に全体重を預け、そしてうなだれている。「体調悪いのかな･･･」とも思ったが、しばらく様子を見ることにした。
「ああああああぁぁぁぁ･･･スゥゥゥゥーーー（大きく息を吸う仕草）うぅぅぅげぇぇ･･･あぁぁぁぁ〜･･･」ああ･･･これはもうあかんやつや。目もうつろだし顔色もおかしい。閉鎖された空間でしかもこんなに人が多いと酸素も薄いだろう。どこかに座らせたほうがいい。
辺りをキョロキョロを見渡すも、人口密度が多くてなかなか周りが良く見えない。目を下に向けると、彼のすぐ目の前の一人掛け席に座っている女性が見えた。「寝てる･･･？」しばらく注視する。すると、うっすら目を開け彼の様子を伺って、また目をつぶった。「あ、寝てない」そう確信した私はすぐさま声をかけてみる。
「すみません、こちらの方気分が悪そうなので席を譲っていただけませんか」
快く譲ってくれた。そのあとの彼女のちょっとバツの悪そうな表情に逆に申し訳なくなった。あとあと、譲るタイミングを伺っていたのではないだろうかとも思った。だとしたら余計なことをしたのかもしれない。
