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発熱の夜に【連載】松尾英里子のウラオモテ

松尾英里子 松尾英里子


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2、3分ほど待っただろうか。少なくとも、10回くらいワルツのループを聞いたところで、先ほどの男性が出る。

「急患が混んでいるみたいで電話がつながらないので、15分後くらいにかけてください。」

んなバカな!! 急を要するから時間外を承知で急患に電話しているのに、15分待てと。面くらいって「え、あ、はい!!」と返事をして、電話を切る。

そのタイミングで、夫の職場の方が別の病院を教えてくれた。小児科専門で、夜9時までやっているらしい。家からは少し離れているけれど車で行けばすぐだ。行くしかない!

息子は、さっきから何かを感じていたようだ。ただならぬ電話の様子、親の表情。たぶん子どもはいつも、親が思う以上にいろんなところにアンテナを張り巡らせ、空気を感じている。「これからお出かけするよ!」と私が言うとそれだけで「おでかけまえのチッチいって、くつしたはいて、〇ちゃんのびょういんいくんだ」と答えた。そして、(いつもは私が付き添わないと行かないのに)トイレに行ってひとりで用を足し、靴下を履き、さっさと玄関で靴まで履いて、「ママ、いくよ!」と私を呼んだ。いつもとは別人のようだった。

暖かい夜だった。すっかり日は暮れて、星が光りだしていた。なかなか見つからないタクシー。駅前まで行っても見つからず、病院方面に小走りしながら、タクシーを探した。息子もずっと走り続けた。「〇ちゃん〇ちゃんがんばーれ」と、妹の名前を呼びながら、応援していた。およそ1㎞は走ったと思う。やっとタクシーが見つかった。

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