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それは愛か、自己満か【連載】松尾英里子のウラオモテ

松尾英里子 松尾英里子


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勝手な盗み聞きリサーチの末、私はユザ〇ヤに向かった。苦手の裁縫。できるものなら外注してしまいたい。それなのになぜさっさとネットでオーダーしなかったのか。それは、「入園グッズは手作り」という概念に私がとらわれていたからに他ならない。決断しきれない私。ユザワ〇ならば、オーダーもできるし、完全なる手作りもできる。私は、冷静と情熱の間、理想と現実の間で揺れ動き、ほんのちょっとだけ結論先延ばしの道を選んだのだ。

手作りか。頼んで作ってもらうか。2人の私が、会話をしている。

子どもが気に入った絵柄を用いた、母親の手作りバッグ。多少の糸のほつれすら愛の証。通園もお弁当の時間も、そこには母の愛がある。ああ素敵、ああ美しい。

いやいや、ちょっと待て。それって愛じゃなくて「私ったら、いいお母さんしてるー!」っていう、ただの自己満じゃないか? そんな苦手なことに毎晩時間を費やすのなら、その分、子どもたちに絵本でも読んだり、さっさと寝て、翌日も元気なお母さんでいたほうがいいんじゃないか? そのほうが、よっぽど合理的。

まあ! 自己満だなんて! 想像してごらんなさい。登園する我が子の姿。みんなが手作りのバッグを持ってくる中、ひとりだけ既製品だったらどう?「作ってあげればよかったー」って思うでしょ。あなた絶対思うでしょ。

まあ、確かにちょっとは思うな。でも、愛情の表し方って他にもある。どんなにいいバッグだって、スキンシップにはかなわない。

季節柄、同じような状況の女性たちで、売り場は混み混み合っていた。人混みや行列を避極力避ける傾向がある私にとって、混雑に突入するのはかなりの勇気であった。

作るか、頼むか。

どちらにしても生地を決めなくては。バッグ用のキルト生地とランチョンマットなどに使う普通の布地と、両方ともお揃いの柄にしたい。流行に関係ないキャラクターにしたい。いろいろ考えると、たかが生地と言えども、全然決まらない。

作るか、頼むか。

1時間も店内をうろつき、やっと生地を決めたものの、今度はレジへ向け、ディズニーランドばりの長い行列。

作るか、頼むか。

私は悩み続けていた。そして、何種類かの重い生地を持ちながら何十分も待ち、ようやくレジに着いたその瞬間。私の口は勝手に動いていた。

「あ、全部オーダーしたいんですけど」

あああ! あんなに悩んでいたのに! すべてはここまでの疲労感が決めてしまった! 生地選びに疲れた。人混みに疲れた。悩むことに疲れた。もうすべてのタスクから解放されたい。その欲求に抗えなかったのである。

しかし、一瞬間を置いて、レジのお姉さんは事務的にこう言った。
「お客様の場合ですと、着替え入れと靴用バッグのオーダーは承れないんですね」

え?? どうやら、ユ〇ワヤが提示する型と大幅に違うものは、オーダーできないらしい。園指定の着替え入れは、表にポケット4つ。靴用バッグの持ち手部分も、ちょっと独特だった。

意表を突かれた私。結局、6点中4点をオーダー、残り2点を手作りすることになった。思わぬ形の決着点。しかし、これだけでも、かなりの負担減だ。

そして、私の中の2人の私も納得した。手作りしたい気持ちも愛。余分な時間をかけずにオーダーにして、そのぶん子どもと楽しく過ごしたいと思う気持ちも愛。どちらも根本は同じ。頑張りすぎの自己満にならないように。頑張らなさすぎの甘えた愛にならないように。そうだ、私は私のペースでやればいいのだ!

カタカタカタカタ・・・慣れないミシンの音が、今夜もリビングに響く。

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