これまで4回、酔っ払ったおっさんの話を書いてきたが、酒は何もおっさんにだけ薬理作用があるものではない。女性だって酒を飲めば酔っ払う。もちろん酔い方も十人十色、おっさんのように酔っ払う女性もいれば、普段はバッグの中にこっそりと忍び込ませた悪戯心みたいなものを、そっと取り出す女性もいる。
ずいぶん前、季節は春。少しだけ寒い夜、東急東横線沿線上の小さな街で、とある女性とデートをした時の話である。おれは待ち合わせ場所に少し早く到着したので、喫煙所でタバコを吸いつつイヤホンから流れるフィッシュマンズに脳をヤラれながら、彼女の到着を待っていた。
『いかれたBaby』のイントロに合わせてタバコの煙が宙を舞い、ビルとビルの合間にある夜空に吸い込まれるのをぼんやりと眺めていたら、後ろから肩を叩かれた。
彼女は、ベタな少女漫画のようにおれを覗きこむ。糊の利いた60年代のワンピース、脚は相変わらずすらっと長い。後ろでまとめた黒い髪に大きな瞳、無邪気な笑顔は控えめに言っても引っ叩きたくなるほど可愛い。