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飛ぶ鳥を落としてマウンティングしている企業訪問(2)「BIRDMAN」編

街クリ編集部 街クリ編集部


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皆さん、ご機嫌いかがでしょうか。街クリ編集長西島と編集部員小野が、国内の、完全なる勝ち組クリエイティブ企業に伺って、ギリギリのラインまで根掘り葉掘りお話をお伺いするこの企画。
第2回目は、日本のデジタルクリエイションを牽引するBIRDMANの社長、築地Roy良さんにお話をお伺いします。

BIRDMAN
最先端のデジタルプロモーションを手がける精鋭チーム。Webはもちろん、インタラクティブなインスタレーションや制作物、リアルイベントなどの制作に関わっている。ソフトでもハードウェアでも今まで誰も体験したことが無いようなモノを作ることに常にチャレンジしている。Cannes Lionsシルバー, OneShowゴールド、広告電通賞デジタル部門グランプリ2回、Code Awardグランプリ、ADFESTゴールド, Spikes Asiaシルバーなど国内外にて120以上のアワードを受賞。
参照:BIRDMAN

築地Roy良(つきじ・ろい・りょう)
BIRDMAN代表 / Creative Director / Art Director
Univ.NSW, College of Fine Art, Bachelor of Design卒業 (Sydney Australia)。デザイナーとしてSydneyの広告制作会社にて活動。1998年に来日しグラフィックデザイナーとして活動後Flashにはまりインタラクティブ制作を始め2004年にスパイス・グラフィックスを立ち上げる。2009年にBIRDMANに社名を変更し現在に至る。インタラクティブを中心に、あらゆる手段を使って人を動かす提案をすることが出来る。広告は大好きだが、なに造っても良いよと言われると無理なタイプ。
参照:wantedly

BIRDMANのルーツ


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BIRDMAN社オフィスにてインタビュースタート

西島知宏(以下、西島) お久しぶりです。本日は色々とお話お伺いしますので、よろしくお願いします。

築地Roy良(以下、築地) こちらこそよろしくお願いします。

西島 では早速。ロイさんとは2011年のカンヌでご一緒して色々とお話をお伺いしたのですが、改めてルーツ的な話をお伺いしても宜しいでしょうか。ロイさんて国籍はオーストラリアなんですよね?

築地 はい。小3まで日本に住んでいて、中2でシンガポールに行って、大学でオーストラリアの美大に入ってデザインを専攻してました。プロダクトデザインとか環境デザインとか建築っぽいのもやってたし、グラフィックも。で、大学を卒業する2年前からグラフィックデザイン会社で働き出し、卒業後も2年くらい働いていました。

西島 その後、日本にいらしたんですよね? いつでしたっけ?

築地 1998年かな。日本では、広告プロダクションに入って5年位働いていました。

西島 そもそもな話なんですが、何で日本だったんですか?

築地 日本って海外から見てると相当「変な国」だし刺激的なんです。海外の有名なデザイナーやアーティストも日本は面白いと言っている人が多い。魅力的に見えるんですよね。島国で国土も小さいから、ギューッとコンパクトに色んなものが圧縮されて集まっている感じ。特に東京は。日本にずっと住んでると分からないのかもしれません。凄くテクノロジー進んでると思いきやトラディショナルだったり、県によって食べ物が全然違ったり、四季があったり。日本では当たり前のことだけど、海外から見るとすごく特殊です。そんな日本で自分を試してみたいとずっと思っていました。

西島 ロイさんってずっとバリバリのデジタル系だと思ってたんですけど、グラフィックも長かったんですね。どこからデジタルに移行して行ったんですか?

築地 もともとは映像がやりたかったんですけど、日本の映像業界って役割が分担されてるんじゃないですか。オーストラリアってかなり少人数でCMとか作っちゃったりするので、それにビックリして。そんな時にFLASHが出てきて、すげぇ動くじゃんみたいな。これだったら全部自分で作れちゃうし、これやろうって感じで。

西島 フリーになられたのはいつですか?

築地 2003年ですね。元々フリーになるつもりは無かったのですが、趣味ではじめたFLASHのサイトが雑誌に掲載されたり、そこから個人で頼まれる仕事が多くなったのがきっかけです。

西島 その時の屋号はスパイスグラフィックスですよね? BIRDMANになったのはいつですか?

築地 2011年ですね。

西島 コピーライター的にBIRDMANってかなり良い名前だなと思うし、自分が社名考えた経験からしてもなかなか思いつかないと思うんですけど、どうやってひらめいたんですか?

築地 スパイスグラフィックスっていう名前がそもそも嫌で(笑)

西島 嫌?(笑)自分でつけたのに?

築地 元々フリーになるつもりは無かったので、自分のポートフォリオサイトを作るために犬のお散歩中に適当に考えた名前だったんです。会社として軌道に乗ってきたので社名を変えようと思ってしばらくずっと考えてたんですけど、キャラクターみたいなのが欲しかったんです。何でって言われると思いつきとしか言えないんですけど、夜中3時くらいに急に思いついちゃったんですよね。夢というか目指すビジョンとしては、クリエイティブ業界のヒーローになりたい。困っている人を助けるっていうヒーローっていうよりも、憧れられる存在になりたいっていう意味ですね。

西島 元々は違う名前に決まりかけてたんですよね?

築地 そうなんです。「ULTRA STANDARD」っていう。もしくは「KINOBI」。機能美っていう意味で、その言葉って日本にしかないのでいいなと思い、社名にするつもりでロゴや名刺もデザイン終わってました。しかし、アワードの受賞式とかに行くと、色々な社名が壇上に呼ばれるじゃないですか。その時に元々候補に上がってた名前が呼ばれるイメージが全く浮かばなかったんです。そこで「これは違うな」と確信して考えなおしたのがBIRDMANでした。

西島 BIRDMANのキャラクターって何かモデルがあるんですか?

築地 ないです。一から考えました。とはいえバットマンぽいですよね(笑)
実は、BIRDMANに変える直前にカンヌで賞が獲れたので、社名変更どうしようと思ってちょっとひよったのですが、変えました。無名になるわけだからサイトも映画の予告みたいなのを意識してキャラ立ちしたサイトを作ろうと思ってたんですが、その時はやっぱり映画のバットマンとか参考にしてたかもしれないですね。


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BIRDMAN社の天井に飾られているバードマンキャラクター

最近の仕事

西島 次にBIRDMANが最近どういうお仕事されてるかお伺いしてもいいですか?

築地 最近だとGoogleのAndroidのプロモーション「Android合唱団」ですかね。

Reference:YouTube

 

西島 これ300台全部声部が違うんですよね? 同期するのめちゃくちゃ大変そう。

築地 最初、300台は正直同期できるか分からなかった。実際に試そうにも300台のスマホが無いので…。でも技術的にはなんとかなると分かった。しかし実際にやってみると、単純に一つのでっかいスピーカーから歌が流れているだけにしか聞こえなくて、全くオーケストラには聞こえませんでした。同じタイミングで音を鳴らしちゃうと、コンピューターなんで奥行きがなくなるんです。でもそこから音楽家の人密接に入ってもらって、1台1台のタイミングや音程もちょっとづつずらしていって300台分の個性をそれぞれに出していきました。するとやっとオーケストラに聞こえるようにしました。技術的に大変というのもあるけど、一番の重要な部分は超アナログで地道な作業です。

西島 これは代理店が入ってるんでしたっけ?

築地 代理店は電通です。CDが電通で、制作はうちとカイブツが入ってます。

kaibutsu(カイブツ)
木谷友亮氏が2006年に設立。カンヌ広告祭銀賞、ロンドン広告賞、NYADC銀賞など、国内外250回以上のアワードを受賞しいる海外でも注目されているクリエイティブカンパニー。
参照:kaibutsu(カイブツ)

西島 企画から実施のプロセスを簡単にお伺いしてもいいですか?

築地 企画はみんなでブレストをしながら。最初は全然違う企画だったんですけど、ブレストでうちが前に50台のPCを同期させたポップアップシアターっていうのをやっていたんですけど。そんな感じでみんなに歌わせたらいいんじゃない? って。それがウケて実際に動き出したのが昨年の12月くらいですね。

西島 カイブツさんとの役割分担はどうなってるんですか?

築地 うちは企画と実装を担当して、企画とデザインでカイブツが入っています。

西島 なるほど。デジタルだけど情緒が入っていてとてもいい施策ですよね。海外でプロモーションしても、ウケそう。

築地 サンフランシスコで「Google I/O」っていうカンファレンスがあったのですが、それに日本から初めて招待されて、お披露目してきました。反応はとても良かったようです。

西島 それは凄いですね。あと、もう一つくらい最近のお仕事お伺いしてもいいですか。

築地 クロックスの空中ストアですかね。これは本当、社運をかけました。

Reference:YouTube

 

西島 社運をかけたと言うのはどういう意味でですか?

築地 ドローンって注目されてるじゃないですか。良い意味でも悪い意味でも。ドローンをこのレベルで制御するのって難しいので、テレビでも密着されてたし、初日に40社以上のメディアが取材に来る事になってたので、万一事故ったら「ドローン規制のきっかけはBIRDMANがやった施策」なんて事になりかねないのでかなり気を使いました。最終的には完全に制御できるようになるまでオリジナルでドローンを開発したり、イベントの前に、1ヶ月間巨大な倉庫を借りて、実際にイベントと同じセットを作って泊りこみで実験を繰り返しました。はじめにプロのラジコン講師と契約をしていたのですが、そこでドローンについて詳しく知れば知るほど、これは無理なんじゃないかと…。

10cmそこらの小さなターゲットにドローンを完璧な精度で着地させるのは無理だろう、と言われていました。まさにロボットのように正確な位置にドローンを静止させるのは、空中で踊るようなパフォーマンスとは訳が違うし、ましてやそこから靴をキャッチしてお客さんに届ける。しかもそれを何度も繰り返すというのは不可能だろう、と…。しかしスタッフはもちろん、それこそ借りた倉庫の警備員さんに至るまで協力を得られてプロに不可能と言われていた事を最終的には95%の確率で成功させることができるようになりました。本番の2日前に…。

西島 2日前ってかなりギリギリですね(笑)でもそんなドタバタを感じさせないクオリティですね。話は変わるんですが、BIRDMANってスペシャルサイト作ったりする仕事はもう断っちゃうんですか?

築地 断りはしないですけど、そもそもクライアント自体がスペシャルサイトをやめて、イベントとかPRに投入するようになって来ている感じはしますね。3~4年前はスペシャルコンテンツとか沢山作ってましたけど、今はそもそもあまり話が来ないですね。今はキャンペーン自体がデジタル中心だったりもするし、イベントもPRもOOHも何かしらデジタルが絡んでくることが多いので、そこら辺をうちが全部やれるってブランディングしてるのもあるんですけど、何か今まで見たことないようなモノを一緒に考えて欲しいとお声掛けしてもらえるようになってるって言うのはあります。


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    Android合唱団の実機を見せて頂く

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    1機1機に個性があってデジタルだが情緒を感じさせる

クリエイターの採用と人材評価

西島 BIRDMANの強みを維持するために採用ってかなり重要な気がしますけど、BIRDMANに必要な人材についてはどう考えていますか?

築地 オールマイティーな人がいいですね。映像を編集するだけの人は要らない。プログラムも出来るし、映像もできるし、それこそ撮影もできちゃうし、機材のこと詳しいとか、そうゆうマルチに出来る人が好きです。ある技術に特化したプロフェッショナルだと、うちには合ってないのかもしれません。例えばプログラマーだったらWEB作るだけじゃなかったり、イベントをやったりもするので、プログラミングしかできません! っていう人は厳しいと思います。やった事がない事をやりたいという人の方が向いていると思うし、やったことがない事を楽しめる人じゃないと難しいと思います。

西島 人材の評価に関してはどうしていますか?

築地 評価は私の評価シートと、リーダーの評価シート、個人の評価シートっていうのがあって、前年の目標に対してどれくらい達成できたか、一方で来年の目標も書いてもらって、その三軸をもとに面接をしますね。

西島 項目立てできない評価軸もあったりしますか?

築地 この人は会社にいなくてならない存在かどうかっていう所ですね。代わりがいるのかいないのか。超感覚的ですけど。

西島 プロデューサーとかディレクターは、数字の評価基準もあるんでしょうか?

築地 金額で見るっていうのはやりたくなくて。この仕事は10万だから10万円分くらいの作業量でいいって思ってほしくないんですよね。

西島 BIRDMANって今40人くらいですよね。

築地 今36人です。

西島 組織は、ユニット制とかになってるんですか?

築地 同じ機能を持ったチームを大きく2つ作って、とか過去に試したんですど、結局上手く機能しなくて。今は職能ベースでチーム分けして、それぞれのチームにリーダーがいるという感じですね。

西島 以前、15人くらいの時にお話して、どんどん規模を大きくしたいって仰ってたと思うのですが、40人規模になって今後も増やす感じですか?

築地 これ以上は増やしたくないですね。15人の時に増やそうと思ったのは、賞が取れなかったからなんです。15人でやっているとなかなか受けられなかったチャレンジングだけど予算が無いような仕事も、30人規模だと受けられる。それが大事なんですね。増やすと言った次の年には人数が倍くらいに増え、それから目標だった賞も獲れるようになりました。

今後の展開

西島 今、デジタルの会社も、アジアを始め結構海外に出て行っているイメージがあるんですが、BIRDMANはどうですか、海外。

築地 面倒くさいのでないです(笑)

西島 でもグローバル企業の仕事が入って来たらやりがいあるんじゃないですか?

築地 ちょっと面倒くさいですね(笑)。でもそんな話が代理店とかからあれば行くかもしれないですけど。いきなり自ら海外に行ってクライアントを探すことはしないというか、今まだ日本で出来ることがいっぱいあるので。

西島 サービス開発とかは考えていますか?

築地 今はヘッドマウントディスプレイとかを使ってR&Dをやってます。でも正直なこと言うと自社サービスとかで儲ける情熱がないんですよ(笑)。広告作るのが好きなので。

西島 課題があった方がいいんですかね。

築地 ですね。あと、今は広告自体がデジタルが中心になってきてるし、カンヌとか見ても、FILMもOUT DOORもPRも、つまりCyberカテゴリじゃなくてもほとんどデジタルが絡んでいる。出来ることはどんどん増えているし、幅もどんどん広がっている。必要あらばプロダクト開発などもして行きたいと思ってます。すでに何屋なのか不明ですが…。

西島 なるほど。アートワーク的な取り組みはどうですか?

築地 これはロンドンのデザイナーズウィーク用に作ったやつです。

ZEN TOILET

Reference:Vimeo

 

トイレにマッピングをするっていう。スタッフのモチベーションアップっていうのもあるんですが、仕事じゃできないことをやろうと思って。展示の際、海外の人からは「これいくら?」ってさんざん聞かれたんですが、「面白いからやっただけ」って言ったら「何しにきたの?」って言われて(笑)。そもそもDesigner’s Weekは商用の見本市だったりするのでそういう反応が多かったです。
外国の方は日本のトイレがハイテクだ! という認識があるのでそれをさらに誇張し、ウォシュレットをさらに進化させてお尻だけでなく心まで洗えるトイレ。トイレの中で心も体も綺麗にしようっていうコンセプトで作りました。

西島 面白いですね。トイレメーカーとかに売り込んだらいいじゃないですか?

築地 ショールームでやるとかですよね? 実際やったほうがいいと思うんですけど。

西島 僕だったら営業に行っちゃいますけど(笑)

築地 うち営業する人もいないし、トイレメーカーの人が声掛けてくれればいいんですけど。こっちからトイレメーカーに電話してっていう人がいないので。そうゆうのがヘタなんですよね。そこで儲けてもしょうがないよって思うんです。もしあったら楽しいと思うんですけどね。

西島 最後に社内環境を良くするためにやってることなどあれば聞かせて下さい。

築地 今までやって来て、やっぱり一番はコミュニケーションを活性化させる事だと思っていて、そのキッカケになればと、おつカレー会というのをやってます。

西島 みんなでカレーを作る会?

築地 第2週の金曜日に月1で4名1チームでピザかカレーを他のスタッフにご馳走するっていうイベントです。ご飯食べてビール飲んで雑談をします。ピザ窯は結構本格的で、400℃くらいまでいきます。

西島 今日ピザ釜見たかったんですよ。いいですよね、これ。今度食べにきていいですか?

築地 いつでもどうぞ。

西島 今日は色々と有り難うございました。とても面白い話が聞けました。


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編集後記

ロイさんと出会ったのは2011年。某アパレルメーカーの競合プレゼンにチームインしてもらった時だった。その時BIRDMANの仕事を初めて見たけど、正直驚いた。カンプが圧倒的なクオリティだったのだ。2012年のカンヌでご一緒した時に、家族のこと、会社のこと、仕事に対する想いなどについて色々とお話した。

圧倒的なアウトプットの前で人は黙ってしまう。「神の領域を侵してはいけない」という状態に近いのかもしれない。誰かがBIRDMANのデザインはほとんど直しが入らないと言っていた。恐らく圧倒的なアウトプットがクライアントを魅了しているのだと思う。

ロイさんは「子供の心を持ったまま大人になった人」だ。誰にも媚びず、自分の世界がすべてで、自分が好きなことをただ追求する。普通の経営者だったらクリエイターであれ、毎月、数百万、数千万のコストがかかる訳なので、売上や営業活動のことを考えてしまうと思う。しかし、ロイさんは良い意味で気にしていないのかもしれない。良いモノを作っていたら必ず仕事がついてくる、その信念と、自信があるのだろう。クリエイティブ企業は「アウトプットが最高の営業ツール」になる。BIRDMANはその典型だと思う。

デジタルを起点にますます活躍の場を広げるBIRDMAN。今後の活躍が楽しみなクリエイティブ企業だ。

西島知宏

街角のクリエイティブ ロゴ


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