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ため息ついても、いいですか?【連載】松尾英里子のウラオモテ

松尾英里子 松尾英里子


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私には2歳の息子と0歳の娘がいる。

息子が初めて言葉をしゃべったのは9ヶ月の時。葉っぱ、だった。それから、パパを覚え、ママを覚え、加速度的に言葉を覚えた。いまや立派なニンゲンだ。何もしゃべれないところからのスタートで、ここまで話せるようになるとは、いやはや、子どもの2年は凄い。

娘は生まれてまだひと月ちょっと。きっとここがどこなのかも、あまりよく分かっていないと思うし、言葉なんて、まだ全くわからない。それでも、口元を見せながら「あ〜」と語りかけると、何回かに1回「あ〜」と答えてくれる。意味こそないが、なにか心が通ったようで嬉しい。

オトナになるとあっという間に感じるけれど、2年という時は、言葉を習得するに十分なくらい、実は結構長い時間だということ。大事な人と言葉を交わせることが、実は結構嬉しかったんだってこと。

ほかにも、家族のあるしあわせ、未来に想いを馳せることの楽しさ、成長を見ることの嬉しさなど、子どもは、いろんな気持ちをたくさんくれる。子どもに合わせて、随分早起きになったが、天気のいい朝、カーテンを開けるちょっとしたワクワク感だって、たぶん、自分ひとりの生活じゃ忘れていた。
でも、そんな事を思っていられる、穏やかで温かい時間ばかりじゃない。きっと多くのママと同じように、私も、怒ったり、悲しくなったり、グルグルと負の感情スパイラルに陥ったりすることもある。

夜9時。部屋の電気を消しても、なかなか寝ない息子。新生児は眠くてうとうとしているのに、隣の2歳児は薄明かりの中、自由に歌を歌っている。
最近好きなのはアルファベットソング。部屋を真っ暗にしても ♪えーびーしーでぃーと始まるので、眠い妹はたまったものではない。あまりにも ♪えーびーしーでぃーと賑やかなので、私もイライラして「アメリカ人かっ! 」と怒りのツッコミを入れる。(実際、アメリカで生まれたので、国籍上はアメリカ人でもあるのだが。そのあたりはまたおいおい。)
そして、添い寝しようと布団でスタンバイしている私に向かって、大きくダイブ。受け止める態勢をとるには遅く、私の眉間に息子の頭がぶつかった。白い光が見えた。「あ、星が見えた。漫画みたい。」と冷静に思った。それと同時に涙が溢れた。

涙。

息子の石頭が痛かったからではない。いや、確かに痛いといえば痛かったのだが、でもそれより、なにか、行きどころのない気持ちが溢れてきた。

夫や、かつての会社の仲間たちはまだバリバリ働いている。ちゃんと社会の中に居場所を持っている。
夜9時だ。私だって数年前なら、同僚たちとの夕食を済ませ、これから始まろうとする生放送に向けて、準備しているところ。休みの日だったら、気の置けない友人たちと、ちょっとオシャレなお店でお酒でも飲んでいただろう。シビアな毎日だったけど、やりがいもあった。

今の私はどうだ。
「寝る」という、私からすれば簡単すぎるほどの行為(実際、いつでもどこでも眠れるのが、私の特技ですらある)をさせるため、幼子相手に四苦八苦している。仮に今すぐ、寝かしつけることができたからといって、「今日は早く寝かせたから、査定アップ!」なんてこともない。誰に感謝されるわけでもない。そう、That’s ALL、である。そしてまたきっと明日も、同じ時間に同じようなことで苛立ち、さらには苛立ってる自分自身に、また苛立つのだろう。

ああ、なんて生産性も達成感もない、毎日の平凡な作業!!

そう思ったら、涙が次から次と出てきた。

…いうまでもないが、これは、ノンフィクション。超リアルなマイライフである。おそらく、他のママたちと同じように、私も時折こうしたスパイラルに陥っては、はっと我に返って、また浮上している。

とはいえ、結果的には、大変さを上回る可愛さや愛しさがある。やっぱり、子どもがいてよかったと、つくづく思う。今まで知らなかった感情を味わったり、気付かなかったところにも目が行ったりするようになる。だから、毎日大変だけど、育児を続けていられる。

それに、子どもはこのままじゃない。いつか必ず大きくなる。私を呼び、泣く声も、今だけのもの。寝たくなくて遊び続けている息子だって、高校生にでもなれば年じゅう「眠いー眠いー」と言っているんだろう。そう、すべては、今だけのもの。

そう思うと、ちょっとだけ心に余裕ができる。子どもたちが20歳を過ぎたいつの日か、いいワインでもあけながら、今の日を語りたい。その時まで、気長にがんばろう。そう自分に言い聞かせる。

 

さて、この7月から、街角のクリエイティブでコラムを書かせて頂くことになった。

これまで、いち読者として、街角のクリエイティブのコラムを楽しみにしてきた。その手前、果たして自分に何が書けるかなと思った時に、西島編集長のお誘いを一つ返事で承った、あの日の自分に「ちょっと待って」と言いたくなる。

でも、せっかくの機会だ。この際だから、きれいごとやかっこいいことばかりじゃなく、時に毒づいたり嘆いてみたりため息ついたり、まさに私の「裏も表も」さらけ出したコラムにしたい。「いいカッコしい」な私だったけれど、このコラムに関しては、恥ずかしいとか、みっともないとか、そういう気持ちは封印しようと思っている。そして、願わくば、読んで下さる方の心に、ごくたまーにでいい、ふわっと広がる、一滴のアロマオイルのようであれたらと思う。そんな決意を表明したところで、また次回。

街角のクリエイティブ ロゴ


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