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「ザ・スーサイド・スクワッド」ジェームス・ガンに学ぶ、炎上との向き合い方

橋口幸生 橋口幸生


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2021年7月22日、小林賢太郎氏がオリンピック開会式のディレクターを解任された。原因はご存じの通り、20年以上前のコントでユダヤ人虐殺をジョークにしていたことだ。

もうはるか昔のことのように感じられてしまうが……当時、このニュースにふれた映画ファンの多くは、マーベルから解雇されたジェームス・ガンのことを思い出したのではないだろうか。



出典:IMDb

経緯をおさらいしよう。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズの大成功により、ハリウッドのトップ監督の1人になったジェームス・ガン。続くシリーズ3作目にして完結編も手掛け、さらなる高みに達するだろう……と誰もが思っていた2018年7月に、事件は起きた。ディズニーはジェームス・ガンを解雇し、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」3作目はもちろん、今後ディズニー作品に一切関わらせないと発表したのだ。

原因は、2008~2011年ごろのジェームスのツイートの内容だった。(検索すればすぐに出てくるので、ここでは詳細は触れない)10年前のツイートを理由に解雇することは正しいのか? 論争が起きたものの、ガン自身はこの決定を素直に受け入れた。

ハリウッド超大作の監督としてのジェームス・ガンのキャリアは、これで終わった。当時、誰もがそう感じたと思う。

しかし、事態は意外な展開を見せる。マーベルのライバルであるDCコミックスが、ガンにオファーを出したのだ。しかも、「どのヒーローを映画化するのも自由」「内容にも口出しをしない」という破格の待遇だった。

問題ツイートが理由で解雇された監督を、ほとんど時間を置かず、監督として雇う。批判されそうな決断だが、反対の声はほとんど挙がらなかった。こうして作られた映画が、本記事で取り上げる「ザ・スーサイド・スクワッド」であることは、みなさんもご存じの通りだ。



出典:IMDb

そして、ディズニーは解雇の約8ヶ月後に、ガンの再雇用を発表。予定通り「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」第3作目を手がけることが決定している。(2023年5月公開予定)

自分でも覚えていないような大昔の発言で、すべてを失う。今や誰の身にも起こりうる話だ。

この記事では、ジェームス・ガンの大炎上からの大復活を検証することにより、ソーシャルメディア時代を生き抜くためのヒントを探したいと思う。

炎上対策その1:過去の自分ではないことを行動で証明する

多くの人は問題が起きると、

「誤解を与えたのなら申し訳ない」

……というような、テンプレート化された謝罪文をとりあえず発表する。

一方、解雇された時のジェームス・ガンのコメントが、こちらだ。

「私のキャリアを追ってくださっている多くの方々がご存知のように、活動を始めたころ、私は自分自身を挑発的な人間だと捉え、乱暴でタブーに触れる映画を作り、ジョークを口にしていました。公に何度もお話ししているように、私が人間として成長するにつれ、作品やユーモアも成長しています。良い人間になったとは言いませんが、数年前とはまるで別の人間になったのです。現在、私は怒りではなく、愛情や繋がりに根ざした仕事をしようとしています。単にショッキングな内容だから、単に人々の反応が欲しいから何かを言っていたような日々は終わりました」

10年近く前の発言や、挑発的であろうとする不幸な努力は、当時から完全に間違っていたものです。以来、私は長年後悔してきました。愚かで全く面白くないだけでなく、非常に無神経で、私自身が望んでいた挑発とも違うものだったからです。また、それら(の発言や態度)は、現在やこれまでの私を反映するものでもないからです」

「それから長い時間が経ちましたが、私は今日のビジネス的な決定を理解し、受け入れます。長い年月が経過してもなお、当時の自分自身のふるまいについては私に全責任があります。今できることは、心から、誠実に後悔の念を表明すること以上に、私自身がなりうる最高の人物になるということだけです。受け入れ、理解し、平等性に貢献し、公の場での発言や責任に対してさらに思慮深くなるということです。私の関わる業界、またそのほかの皆さんに、改めて深くお詫びいたします。皆さんへの愛をこめて」
(出典:THE RIVER)

「誤解を与えたのなら申し訳ない」とは次元の違う、心からの謝罪であることは一目瞭然だ。「現在、私は怒りではなく、愛情や繋がりに根ざした仕事をしようとしています」という言葉が事実であることも、彼のフィルモグラフィーを振り返ればわかる。

ジェームス・ガンはトロマ・エンターテイメントという映画制作会社でキャリアをスタートしている。「悪魔の毒々モンスター」「カブキマン」といった低予算のB級映画で映画ファンから愛されている会社だ。マーベルに大抜擢されて作った「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」も、よほどのマニアでないと知らないマイナーキャラを集めたチームだった。

つねに弱いものの立場から映画をつくってきたのが、ジェームス・ガンなのだ。

そのスタンスは「ザ・スーサイド・スクワッド」でも変わることはない。

悪党が集まったチームという触れ込みではあるが、そこにジョーカーやレックス・ルーサーのようなスターはいない。公式プログラムの言葉をそのまま引用すれば「ゴミのような扱いをされてきたヴィランばかり」だ。

このことは、それなりにモダンにアレンジされた映画版ではなく、原作コミックスでの姿を見ると、よくわかる。



出典:beedingcool.com



出典:cbr



出典:insider



出典:cbr

「スーパーマンでもバットマンでも、どのキャラを選んでもいい」と言われていたのに、よりによってこの面々を主役に選んだというのは、ただ事ではない。これが「愛情や繋がりに根ざした仕事」でなくて、なんだというのだろう。(ちなみにポルカドットマンは「LEGOバットマン」にも登場しているが、ここでもネタ扱いだった)

劇中でラスボスを倒すのは、ラットキャッチャーが操るネズミ達だ。この世でもっとも嫌われている生き物がヒーローになる。まさにジェームス・ガンの真骨頂と言っていい名場面だ。

炎上対策その2:「最高の自分」であろうとする

「完璧な人間はいない」

問題を起こした人間を擁護するとき、よくこんな言葉が使われる。まったくもってその通りだ。確かに完璧な人間はいない。しかし、「自分自身がなりうる最高の人物」になろうと努力することはできる。

ジェームス・ガンの解雇を受けて、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のメインキャスト9名は、彼の復帰を訴える署名入りの声明を発表した。そこには、こんな文章が書かれていた。

「私たちは数年前の彼のジョークを擁護するのではなく、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズの制作において、撮影現場でともに味わった長年の体験を共有いたします。解雇された直後に彼が示した人柄は、撮影現場に毎日存在した彼の姿と同じものです
(出典:THE RIVER)

署名したキャストの中でも、とくに声高だったのがデイヴ・バウティスタだ。バウティスタは元WWEのプロレスラーだが、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」で俳優としてブレイク。「007」や「ブレードランナー 2049」といった大作に出演できるようになった。恩人の危機に際して、バウティスタはディズニーを公然と批判。ジェームスの復帰が無ければシリーズ3作目には出演しないとまで宣言したのだ。

トロマ・エンターテインメントの創設者である、かつての師匠ロイド・カウフマンも、ガンへの支持を表明した。

ガンの復帰を求めるオンライン署名は40万筆以上を集めた。(筆者も署名した)

「才能のある監督」というだけだったら、ここまでの反響は無かっただろう。仕事で出会う人々に、ポジティブに接したこと。自分だけではなく友人のキャリアも応援したこと。他者への態度が、自分自身の救済につながったのだ。

誰だってヒーローになれる

もしあなたがスーパーマンのような完璧超人ではないのであれば、「ザ・スーサイド・スクワッド」を観るべきだ。

娘との不和。毒親の虐待。彼氏が地雷。スネに傷持つ落ちこぼれや負け犬、つまはじき達が、それでも何事かを成し遂げようと駆け回る。人体破壊描写も大サービスのてんこ盛り。ディズニーでは隠していた「挑発的で、乱暴で、タブーに触れる」部分も全開だ。

ソーシャルメディア時代、過去の自分に足を引っ張られるリスクは避けられない。しかし、人は変わることができる。完璧ではなくても「自分自身がなりうる最高の人物」になるよう努力することができる。

そしていつか、ポルカドットマンのように、こう叫べばいい。

“I’m a superhero!!!”



出典:IMDb


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[イラスト]清澤春香

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