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「フィアー・ストリート」3部作評:ホラー要素が祭りの屋台のように並ぶ、今夏ピッタリの映画がここに爆誕

加藤広大 加藤広大


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「夏といえば」ランキングなるものがあったとする。スイカに花火、夏祭りの金魚すくいや海水浴、あるいは山下達郎など、あらゆる言葉が容易に想起できるが、怪談や肝試し、怖い映画鑑賞などもかなり上位に食い込むのではないだろうか。

ただ、怪談は人を集めなければいけないし、肝試しは外出しなければいけない。今年の夏の状況を考えると難しい場合もあると思う。怪談はzoomでもできそうな気がするし、意外と面白い気がする。「ズーム/見えない参加者」なんて作品もあった、という話はさておき、「怖い映画鑑賞」であれば家に引きこもっていても手軽にできる。

ホラー要素が祭りの屋台のように並ぶ「フィアー・ストリート」3部作


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出典:rottentomatoes

今回取り上げる「フィアー・ストリート」はNetflix独占配信作品で、全3部作となっている。それぞれのタイトルは以下のとおり。

「フィアー・ストリート Part 1: 1994」
「フィアー・ストリート Part 2: 1978」
「フィアー・ストリート Part 3: 1666」

物語は1994年から始まる。舞台はオハイオ州にあるとされるシェイディサイドで、この街では「ある日突如として人が狂い、大量殺人を起こす」事件が度々起こっている。

1994年にもショッピングモールで大量殺人が起き、犯人のライアンはグッド保安官(アシュリー・ズーカーマン)に射殺される。ときにシェイディサイドは、かつてサラ・フィアーなる魔女が住民によって縛り首にされた過去があり、今回も「彼女の呪いではないか」と噂になっている。

事件は解決したかに思われたが、冒頭5分で解決するわけがない。シェイディサイドでは歴代の殺人鬼たちが次々と蘇り、ターゲットになってしまった人物は地の果てまで追い回される。パート1の標的は、シリーズを通しての主人公となるディーナ(キアナ・マデイラ)の元恋人、サム(オリヴィア・ウェルチ)である。

ディーナはサムを助けるために弟や友人たちと協力して、魔女の呪いを解こうと行動する。果たしてシェイディサイドにかけられた呪いとはいかなるものなのか、1944年、1978年、1666年と、300年の歴史を股にかけた壮大なホラー映画が幕を開ける。

本作はホラー映画の骨法に則って非常に丁寧に作られており、誤解を恐れずに書いてしまえば「お約束感」が半端ではない。しかし、お約束をトゥーマッチに盛り込むことで、まるで夏祭り会場の屋台を巡るような楽しみがある。お約束の一部を書き出してみる。

・舞台が片田舎

ホラー映画の舞台は片田舎が多い。片田舎の方が安く済むのであろう。

・ティーンが事件を解決する

10代の少年少女が事件を解決するのもホラー映画のお約束である。

・そもそも季節が夏

露出が多いほうが視聴者が増えるのかは知らないが、夏設定のホラー映画は多い。

・大量殺人鬼が出てくる

本作で登場するのはシェイディサイド歴代の殺人鬼たちであり、装備もバット、斧、カミソリなど抜かりがない。一瞬ネタバレになるがチェーンソーは出てこない。ちなみに歴代殺人鬼たちは一度死んでいるので、殺しても死なない。正確には無限湧きする。

・いけ好かないアメフト部も出てくる

いけ好かないアメフト野郎は90%以上の確率で死ぬ。

・ショッピングモールも出てくる

ホラー映画というかゾンビ映画でお馴染みのショッピングモールも登場。本作では殺人鬼を迎え撃つ要塞として、謎を解く手がかりとして効果的に利用されている。

・サマーキャンプも出てくる

Part2で登場。夏といえばサマーキャンプ。サマーキャンプといえば殺人である。

・謎の地下迷宮も出てくる

オカルト全開の地下迷宮も激しく登場する。

・陽気なバカも出てくる

ホラー映画における陽気なバカは死ぬ場合と死なない場合がある。ネタバレになるので触れないが、本作は比較的良い塩梅で死ぬ。

・セックスしたら死ぬ

とくに腰をスピーディーに動かしている奴は死ぬ。

・セックスしなくても死ぬ

死亡率は下がるが死ぬ。

・良い奴は死ぬ

ホラー映画において「良い奴」が生き残れる保証はどこにもない。むしろ良い奴だからこそ死ぬし、悪役から一転、改心して良い奴になってしまうと死亡率が跳ね上がる。

以下、本作は50項目も100項目もホラー映画のお約束が曼荼羅のように描き込まれているのだが、ホラー映画だからして「あるある(笑)」と笑えるし、お約束ネタがスタックして突撃してくるので意外と鑑賞者を飽きさせない。

ちなみに、ホラー映画を観るにあたり「グロ表現」が気になる方もいるかと思うので、どんなもんなのかを補足しておく。

当然ながら血は出る。スプラッター映画の平均値よりも低いかもしれないが、結構出る。臓物はそこまで出ないが、人が挽き肉になったり、頭に斧が刺さったり、刺突が繰り返されたりするシーンは普通にある。なので「ホラー・スプラッター映画がちょっとニガテ」といった方は気分が悪くなる可能性があるのでご注意を。

最も新鮮であり、かつ残念なのは


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出典:rottentomatoes

ホラー映画のお約束を夏の星空のごとく散りばめた「フィアー・ストリート」は、「ホラー映画あるある要素山盛りの一品」として観ても面白いが、お約束の枠に留まらず、ある程度フレッシュさを確保できている点も好感が持てる。

新鮮さの根拠は3部作を一挙に作ったということで、パート1からパート3まで、クオリティのブレが少ない。1作目で大ヒットしてしまった結果勢いで2作目を製作し、コケてしまったホラー映画は少なくない。しかし「フィアー・ストリート」シリーズは、シェイディサイドの呪いの謎を解き明かすまでそれほどトンマナも変わらず、1で登場していた役者が「お前、もう高校生設定はかなり無理筋だろ」なんてこともなく、CGや撮影技術が向上して画が変わったといったことも一切無い。

というわけで、無理を感じず安心して観れる。何なら「映画を3本観た」というよりも「1シーズン完結のホラードラマを観た」感覚に近い。さすがオリジナルドラマがお得意のNetflix。これは意外と新鮮だった。

けーれーどーもー、逆に考えると一気に3部作を製作したことにより、ホラー映画にありがちな「1は良かったけど2はマジでクソだった。3で若干盛り返したけどさぁ」みたいな楽しみが無い点は仕方がないとはいえマイナスである。5年後とか10年後に観て「あ、やっぱ2面白いかも」のように再評価がされにくいことが予想されるのも若干残念だ。

そして「3本で完結」するので、当然ながらパート1は謎が解明されずに途中で終わるし、パート2も謎が謎を呼び途中で終わる。誤解を恐れず書けばパート1から3まで完走しないと納得感が少ないのも、鑑賞者側のハードルを若干上げてしまっているように感じる。だが、謎が謎のままで終わるホラー映画も多いので、「しっかり完結」する親切さは大いに評価できる。

これからのホラー映画の課題は


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出典:rottentomatoes

ある年代を切り取った映画では、その当時の音楽が鳴らされる。「フィアー・ストリート」シリーズも、パート1では1994年あたりの音楽が鳴らされるし、パート2でも1978年当時の楽曲が引用されている。

ここで重要なのは選曲のセンスと「どこで、どのように、どれほどの音量で流すか」であるが、「フィアー・ストリート」シリーズは「どうすかこれ、気が利いてるっしょ」くらいの提示なので若干弱い。唯一「おおっ」と思ったのはカウボーイ・ジャンキーズ版の『Sweet Jane』が流れるシーンだが、それとて「どうすかこれ、気が利いてるっしょ」の域は出ていない。ただ、念の為に書くが選曲は悪くないと思う。

本作のMSVはノラ・フェルダーで、「ストレンジャー・シングス」や「The OA」などの超人気から超カルトまで、さまざまなテレビシリーズを担当している実績がある。

「サルベーション―地球の終焉―」も彼女の仕事だが、今は地球の隕石落下を知った大学生が超絶億万IT長者にその危機を伝え「それはヤバい」ってんで国家を巻き込んだ超巨大プロジェクトに発展、隕石衝突を阻止せんとする米国の極秘計画と、人類を宇宙に逃がすノアの方舟に乗せる人間を選別するプランBが並行して進み、アメリカだロシアだのがゴタゴタを繰り広げ、恋愛面でもゴタゴタを繰り広げ、何なら全てがゴタゴタしてたのでシーズン2で打ち切りになり、最後は悪役がノアの方舟を乗っ取り宇宙に逃げていくものの「実はあれは隕石じゃなかったんだ! やったー!」と最低で最高の結末を迎えるヤケッパチSFドラマの話をしている時間はない。

話を戻す。ノラ・フェルダーが決めたにせよ、監督のリー・ジャニアクが決めたにせよ、繰り返すが選曲はそれほど悪くないと思う。だが、やっぱりタイミングや音量が若干適当なので、楽曲が本来持っている力もパワーダウンしてしまった印象が否めない。

というか、勢いエドガー・ライトを例に出すが、我々は既に「ベイビー・ドライバー」や本作に準じてホラー映画であれば「ショーン・オブ・ザ・デッド」(ゾンビ映画だけど)で、適正な選曲と、セレクトした曲を適正に召喚するというスキルの最上位(2021年現在)を知ってしまっている。なので適当な選曲と、セレクトした曲を適当に召喚するという行為に関しては「気持ちはわかるけど、ちょっと杜撰だよな」と感じてしまう。もちろん、これは「フィアー・ストリート」だけではなく、ジャンルを飛び越えて映画全体の問題でもある。とくに時代性のある作品ならばなおさらで「何を、どう使うか」は今・即・ナウで考えられるべきであるし、と書かずとも既に考えられているだろう。

とは言っても、気軽に観れて面白いっすよ

と、ホラー映画あるあるをトラックいっぱいに満載したような本作の重箱の隅を突いても仕方がないし、野暮な指摘というものだろう。それらを差っ引いても「フィアー・ストリート」シリーズは、ポップコーン片手にでも良いし、より臓物に近いケチャップたっぷりのハンバーガー片手に鑑賞するには申し分ない作品だ。何より人がスッパンスッパン死んでいく心地良い清涼感が「ああ、夏なんです」と思わせるに十分な出来栄えとなっている。

多くの人がSNSで絶対に勝てないし、負けることもできない戦闘を繰り広げている2021年のクソ暑い夏に、しっかりと完結し、ゲラゲラと笑わせてくれる3部作ホラー映画を観る価値は、そして浄化の力は、果たして全く無いと言えるだろうか。


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[イラスト]清澤春香

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